「マンションで民泊を始めたいけれど、禁止されているのでは?」「管理規約に違反しないか心配」「合法的に運営するにはどうすればいいの?」—このような疑問を持つマンション所有者や投資家の方は多いのではないでしょうか。実際、マンションでの民泊は複雑な法規制と管理規約の壁に阻まれることが少なくありません。
しかし、すべてのマンションで民泊が完全に禁止されているわけではありません。適切な手続きを踏み、関係者の理解を得ることができれば、マンションでも合法的に民泊を運営できる可能性があります。
この記事では、マンションでの民泊に関する法的制約や管理規約の問題、禁止される理由、そして合法的に始めるための具体的なステップまで紹介します。
マンションで民泊することは禁止されている?

結論から言うと、マンションでの民泊は一律に禁止されているわけではありませんが、多くの物件では管理規約によって制限されています。
マンションでの民泊を検討する際には、まず2つの観点から確認が必要です。1つは法律による規制、もう1つはマンション独自の管理規約です。
では、具体的にどのような法的制約があり、管理規約ではどう扱われているのか、詳しく見ていきましょう。
法律による民泊の規制
民泊に関する法律は2018年に大きく変わりました。「住宅宿泊事業法」(通称:民泊新法)の施行により、従来のグレーゾーンだった民泊に明確な法的枠組みが設けられたのです。
この法律によれば、民泊を営業する場合、都道府県知事への届出が必須となりました。さらに、年間の営業日数は180日以内という制限もあります。加えて、住居専用地域では条例によって営業日や営業時間に制限が設けられていることが多いです。
例えば、東京都の場合、住居専用地域では月曜から金曜までの正午から午後3時までしか民泊営業ができないという厳しい制限があります。これでは実質的に営業が難しいと感じる方も多いでしょう。
また、建築基準法上の用途制限も考慮する必要があります。マンションが「住居専用」として建てられている場合、宿泊施設としての使用は本来の用途から外れることになり、法令違反となる可能性もあります。
マンション管理規約での民泊の取り扱い
法律をクリアしたとしても、多くのマンションでは管理規約によって民泊を禁止しています。管理規約は区分所有者全員を拘束する効力を持つため、これに違反して民泊営業を行うことはできません。
管理規約に明示的な民泊禁止規定がなくても、「専ら住居として使用すること」「他の区分所有者に迷惑をかける行為の禁止」などの一般的な条項により、民泊は実質的に制限されていることが多いです。
また、管理規約に民泊に関する明確な規定がない場合でも、短期の宿泊利用が「住居としての使用」に当たるかという解釈問題が生じます。裁判例では、頻繁な入れ替わりのある宿泊利用は「住居としての使用」に当たらないとする見解が多く示されています。
さらに、区分所有法上、建物の使用方法が区分所有者の共同の利益に反する場合、差止請求が認められる可能性もあります。つまり、他の住民が民泊による迷惑を訴えれば、法的に営業停止を求められるリスクがあるのです。
マンションの管理規約とは?

マンションでの生活において、「管理規約」は非常に重要な役割を果たしています。実は、マンションでの民泊が可能かどうかを大きく左右するのも、この管理規約なのです。「そもそも管理規約とは何なのか」「どのように決まるのか」「変更することは可能なのか」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
管理規約は、マンションという共同住宅において、区分所有者が快適に生活するためのルールブックとも言えます。その権限と影響力は想像以上に大きく、民泊の可否だけでなく、あなたの日常生活のさまざまな側面に関わっています。
例えば、ペットの飼育可否、バルコニーの使用ルール、騒音に関する取り決めなど、共同生活の様々な場面で管理規約が指針となります。
管理規約の法的位置づけと効力
マンションの管理規約は単なる「お約束」ではなく、区分所有法という法律に基づいた強い法的効力を持っています。区分所有法第30条では、建物や敷地の管理・使用に関する区分所有者相互間のルールとして管理規約を位置づけています。
この管理規約は、すべての区分所有者を拘束します。つまり、あなたがマンションを購入した時点で、その物件の管理規約に従う義務が生じるのです。これは、たとえ規約の作成に関わっていなくても、あるいは規約の内容を詳しく知らなくても同じです。
特に重要なのは、管理規約に違反する行為は法的に差し止められる可能性があるという点です。例えば、管理規約で民泊が禁止されているマンションで民泊を始めた場合、他の区分所有者や管理組合から差止請求を受け、最終的には裁判所命令によって営業停止を強制されることもあります。
さらに、規約違反が繰り返され、他の区分所有者の共同生活の維持に著しい支障を与える場合には、区分所有法第59条に基づき、専有部分の使用禁止や、最悪の場合は競売請求という厳しい措置がとられることもあります。このように、管理規約は非常に強い効力を持っているのです。
管理組合と管理規約の関係
マンションの管理規約を運用・管理しているのが「管理組合」です。管理組合は、そのマンションのすべての区分所有者(つまり部屋の所有者)で構成される団体で、マンションの維持管理を目的としています。
管理組合の最高意思決定機関は「総会」です。通常は年に1回開催され、マンションの重要事項について決議を行います。管理規約の変更もこの総会での決議事項の一つです。また、日常的な管理業務を行うために「理事会」が設置され、理事長をはじめとする役員が選出されます。
民泊を検討する際、まずこの管理組合に相談することが重要です。管理規約で民泊が明示的に禁止されていなくても、理事会の判断によって制限される可能性があります。また、管理規約を変更して民泊を可能にしたい場合も、理事会を通じて総会に提案するプロセスが必要になります。
管理規約の改正方法
「管理規約で民泊が禁止されているけれど、変更できないの?」という疑問を持つ方も多いでしょう。結論から言えば、管理規約の変更は可能ですが、簡単ではありません。
管理規約を変更するには、区分所有者および議決権の各4分の3以上の賛成が必要です。つまり、100戸のマンションであれば、少なくとも75戸以上の賛成を得なければならないのです。この高いハードルが、管理規約を変更することの難しさを物語っています。
具体的な変更手順としては、まず理事会に提案し、理事会で検討した後、総会の議案として提出されます。総会で4分の3以上の賛成を得られれば、管理規約の変更が認められます。
民泊に関する規約変更を提案する際には、周辺住民の不安や懸念に対するケアが不可欠です。騒音対策、セキュリティ強化、緊急時の連絡体制など、具体的な対応策を示すことで、理解を得やすくなります。
マンションで民泊禁止されている理由とは?

マンションでの民泊が禁止される背景には、複数の重要な理由があります。
民泊禁止の理由は単純な反対感情ではなく、住環境の保全や安全確保といった具体的な懸念に基づいています。住まいとしてのマンションの価値を守るため、多くの管理組合が慎重な判断を下しているのです。
では、具体的にどのような理由から民泊が禁止されているのか、詳しく見ていきましょう。
旅館業界からの反発があるため
民泊が急速に広がり始めた際、最も強く反対したのが既存の宿泊業界です。ホテルや旅館は厳しい法規制の下で営業しているのに対し、当初の民泊は規制が緩く、不公平な競争環境だという批判が高まりました。
旅館業法では、施設の構造や設備基準、衛生管理、防火対策など細かな規定があります。さらに、フロント係の配置や宿泊者名簿の作成など人的な対応も求められます。一方、民泊新法施行前の民泊は、これらの規制をほとんど受けずに営業できたため、コスト面で圧倒的に有利だったのです。
旅館業界からは「同じ宿泊サービスを提供するなら、同じ規制の下で公平に競争すべき」という声が上がりました。こうした声は、地域の観光協会や旅館組合を通じて自治体に届き、条例による規制強化につながりました。
さらに、既存の宿泊施設は地域社会との関係構築に長年努力してきた歴史があります。地域のイベントへの協賛や雇用創出など、地域貢献活動を行ってきた事業者にとって、こうした責任を負わない民泊の急増は大きな脅威だったのです。
こうした業界からの反発が、マンションでの民泊に対する世論形成に影響を与え、多くの管理組合が民泊禁止の判断を下す一因となりました。
騒音やゴミ問題による近隣トラブルを防ぐため
マンションでの民泊禁止の最も大きな理由の一つが、騒音やゴミ問題などの生活トラブルです。一般的な居住者とは異なり、短期滞在の旅行者は建物のルールに不慣れで、無意識のうちに周囲に迷惑をかけることがあります。
具体的なトラブル事例として、深夜の大声での会話や音楽、廊下やエレベーターでの騒ぎ、バルコニーでのパーティーなどが報告されています。特に海外からの旅行者の場合、生活習慣の違いから夜間の騒音問題が発生しやすい傾向があります。
また、ゴミ出しルールの不徹底も深刻な問題です。マンションでは曜日や時間帯、分別方法が細かく決められていますが、短期滞在者にこれを徹底させることは容易ではありません。結果として、不適切な場所や時間にゴミが出されたり、分別されていないゴミが放置されたりする事態が発生します。
特に注意すべきなのは、こうしたトラブルが発生した際の対応の難しさです。通常の隣人トラブルであれば直接話し合いや管理組合を通じた解決が可能ですが、滞在期間が短い旅行者の場合、問題が解決する前に退去してしまうことが多いのです。
こうした状況から、多くの管理組合は「予防原則」に立ち、トラブルを未然に防ぐために民泊そのものを禁止する判断を下しています。平穏な住環境を守るという観点からは、合理的な判断と言えるでしょう。
不特定多数の人が出入りすることを防ぐため
マンションのセキュリティ確保は、区分所有者全員の共通の関心事です。民泊によって不特定多数の人が出入りすることは、このセキュリティを根本から揺るがす要因となります。
通常のマンションでは、住民や常連の訪問者の顔はある程度把握されています。オートロックや防犯カメラなどの設備も、この前提の上で機能しています。しかし、民泊利用者が頻繁に入れ替わる状況では、「見知らぬ人の出入り」が日常化し、不審者の発見が困難になります。
さらに深刻なのは、鍵の管理問題です。民泊では利用者にオートロックや部屋の鍵を渡す必要がありますが、これらが適切に返却されなかったり、無断でコピーされたりするリスクがあります。実際に、鍵の不正コピーによる空き巣被害が報告されたマンションもあります。
また、民泊利用者が部外者を無断で招き入れるケースも懸念されます。友人や知人を呼んでパーティーを開いたり、予約時に申告した人数以上が宿泊したりするケースは、民泊でよく見られる問題です。
こうしたセキュリティリスクは、マンションの資産価値にも直結します。「防犯対策がしっかりしている」ことは、マンション選びの重要な基準の一つです。セキュリティ面での不安が広がれば、中長期的にマンション全体の評価や価格に悪影響を及ぼす可能性があります。
こうした理由から、マンションの管理組合や区分所有者は、建物のセキュリティ維持のために民泊に反対する立場を取ることが多いのです。
マンションの用途違反であるため
マンションで民泊を禁止する最も根本的な理由の一つが、建築基準法上の「用途」の問題です。多くのマンションは「共同住宅」として建築確認を受けており、宿泊施設としての使用は本来の用途から外れる行為となります。
建築基準法では、建物の用途によって求められる構造や設備が異なります。例えば、ホテルや旅館などの宿泊施設では、防火区画の設置基準が厳しかったり、避難経路の確保に関する規定が住宅とは異なったりします。共同住宅として建てられたマンションを宿泊施設として使用すると、こうした安全基準をクリアしていない可能性があるのです。
また、マンションの立地する用途地域によっても制限があります。例えば、第一種低層住居専用地域や第一種中高層住居専用地域では、ホテルや旅館の建設が制限されています。民泊を宿泊施設と見なした場合、これらの地域で営業することは用途地域制限に違反する可能性があります。
さらに、分譲マンションの多くは管理規約で「住居専用」と定めています。これは単なる取り決めではなく、住環境保全のための重要な原則です。短期の宿泊利用は「住居としての使用」に該当するかという点で議論があり、裁判例では否定的な見解が示されていることが多いです。
民泊新法(住宅宿泊事業法)の施行により、一定の条件下では合法的に民泊営業が可能になりましたが、それでもなお建物の用途や管理規約との整合性は別問題です。法律上は認められても、マンションの性質上は適さないという判断から、多くの管理組合が民泊禁止の方針を取っているのです。
特に新築マンションでは、当初から民泊禁止を明記した管理規約を採用する傾向が強まっています。
マンションで合法的に民泊するには?

マンションでの民泊に興味を持っていても、様々な規制や条件があり、どのように進めれば良いのか迷われている方は多いのではないでしょうか。確かに、マンションでの民泊は難しい面がありますが、適切な手続きを踏めば合法的に実施できる可能性もあります。
民泊を始める前に、法律上の要件だけでなく、マンションの特性や周辺環境も含めた総合的な検討が必要です。ここでは、マンションで合法的に民泊を始めるための具体的なステップを解説します。準備段階から申請、実際の運営まで、順を追って見ていきましょう。
管理組合や賃貸人から許可をとる
マンションで民泊を始める最初のハードルが、管理組合や賃貸物件の場合は貸主からの許可取得です。この段階で多くの方が困難に直面しますが、適切なアプローチで理解を得られる可能性もあります。
まず、管理規約の確認から始めましょう。規約の中に「民泊禁止」や「宿泊施設としての使用禁止」といった明確な規定がないかチェックします。明示的な禁止規定がなくても、「専ら住居として使用すること」などの文言があれば、実質的に制限されている可能性が高いです。
管理規約に明確な禁止規定がある場合は、規約変更が必要になります。これには区分所有者および議決権の各4分の3以上の賛成が必要で、非常にハードルが高いと言わざるを得ません。しかし、管理組合との対話を通じて理解を得る努力は欠かせません。
管理組合へのアプローチ方法として、まずは理事会への提案書を作成しましょう。
賃貸物件の場合は、まず賃貸借契約書を確認し、用途制限や転貸禁止条項の有無をチェックします。転貸禁止条項がある場合、民泊は原則として実施できません。貸主との交渉が必要になりますが、多くの場合、個人オーナーより不動産会社を通した方がスムーズに話が進むことがあります。
いずれの場合も、一方的に許可を求めるのではなく、「共に解決策を考える」姿勢で臨むことが重要です。管理組合や貸主の懸念点を理解し、それに対する具体的な対策を提案することで、信頼関係を築きながら話を進めていきましょう。
用途地域の確認する
マンションの立地する用途地域によって、民泊の実施可能性は大きく左右されます。用途地域は都市計画法に基づいて定められており、それぞれの地域で建てられる建物や行える事業に制限があります。
用途地域は大きく次のように分類されます。
・住居系(第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域)
・商業系(近隣商業地域、商業地域)
・工業系(準工業地域、工業地域、工業専用地域)
民泊に関して最も制限が厳しいのは、第一種低層住居専用地域と第一種中高層住居専用地域です。これらの地域では、住宅宿泊事業法に基づく届出は可能ですが、多くの自治体で条例により営業日や営業時間が厳しく制限されています。
例えば、東京都の場合、住居専用地域では月曜から金曜の正午から午後3時までの時間帯のみ営業可能という制限があります。このような制限下では、実質的に民泊営業が成立しにくいと言えるでしょう。
一方、第二種住居地域以上や商業地域では、比較的制限が緩やかです。特に商業地域では、基本的に営業時間の制限なく民泊を行うことが可能な場合が多いです。
物件の用途地域は、以下の方法で確認できます。
・不動産登記簿謄本で確認する
・市区町村の都市計画課に問い合わせる
・国土交通省の「国土数値情報ダウンロードサービス」を利用する
さらに、用途地域だけでなく、自治体独自の条例も確認が必要です。自治体によっては、特定の地区での民泊を全面的に禁止していたり、学校周辺での営業を制限していたりする場合があります。これらの情報は各自治体のホームページや窓口で確認できます。
用途地域の確認は、民泊の実現可能性を見極める上で非常に重要なステップです。時間をかけて詳細に調査し、計画の実現可能性を慎重に判断しましょう。
法的要件の確認と準備をする
民泊を合法的に運営するためには、住宅宿泊事業法(民泊新法)で定められた要件を満たす必要があります。主な法的要件は以下の通りです。
- 住宅の要件
・人の居住の用に供されていること(住宅としての実態があること)
・台所、浴室、トイレ、洗面設備を備えていること
・居住スペースが一般的な住宅として必要な広さ(原則25㎡以上)を有すること - 営業日数の制限
・年間提供日数が180日(泊)を超えないこと
・営業実績を記録し、定期的に報告する義務があること - 設備の要件
・非常用照明器具の設置
・避難経路の表示
・消火器の設置
・火災報知器の設置
・宿泊者の衛生確保のための措置(定期的な清掃、寝具の洗濯など) - 標識の掲示
・届出住宅である旨の標識を、外部から見やすい場所に掲示すること - 近隣住民への説明
・周辺地域の住民からの苦情や問合せに適切に対応する体制の整備 - 宿泊者への説明
・住宅の設備の使用方法
・移動のための交通手段に関する情報
・周辺地域の生活環境への悪影響防止に関する事項
・緊急時の対応方法
・その他宿泊者の滞在に関し必要な事項 - 宿泊者名簿の作成・保存
・宿泊者全員の氏名、住所、職業、宿泊日を記録し、3年間保存する義務 - 外国人宿泊者の本人確認
・旅券(パスポート)の写しを保存する義務
これらの要件を満たすための準備をしっかりと行いましょう。特に設備面では、一般の住宅と宿泊施設では求められる基準が異なりますので、注意が必要です。
また、法律上の要件に加えて、各自治体の条例による上乗せ規制にも留意する必要があります。自治体によって、対面での本人確認義務、管理者の常駐義務、騒音計の設置義務など、独自の規制が設けられていることがあります。
保健所・消防署への事前相談をする
民泊の申請前に、保健所と消防署への事前相談を行うことで、スムーズに手続きを進めることができます。これらの機関は、衛生面と防火面の安全性について審査する役割を担っています。
保健所への相談では、主に以下の点が確認されます。
・水回り設備の衛生状態
・寝具類の管理方法
・清掃方法と頻度
・害虫対策
・ゴミ処理方法
事前相談の際には、具体的な運営計画や清掃マニュアルなどを準備しておくと、より具体的なアドバイスを受けることができます。また、保健所によっては現地確認を行うケースもありますので、あらかじめ物件を衛生的な状態に整えておくことも大切です。
消防署への相談では、主に防火設備について確認されます。
・消火器の種類と設置場所
・火災報知器の設置状況
・避難経路の確保と表示方法
・誘導灯や非常用照明の設置
・防炎製品(カーテン、じゅうたんなど)の使用
消防署によっては、「防火対象物使用開始届」や「防火対象物工事等計画届」などの提出を求められる場合もあります。事前に必要書類を確認し、準備しておくことをお勧めします。
保健所や消防署への相談は義務ではありませんが、事前に行っておくことで申請時のトラブルを防ぐことができます。実際に、相談の過程で問題点が見つかり、改善することで無事に許可を得られたケースも少なくありません。
特に、マンションの場合は集合住宅特有の課題(共用部分の避難経路確保など)がありますので、専門家の助言を得ることは非常に有益です。相談は無料で行えますので、必ず利用するようにしましょう。
設備工事や備品の準備をする
民泊を始めるにあたり、法的要件を満たすための設備工事や、快適な宿泊環境を提供するための備品準備が必要です。マンションの場合、共用部分に関わる工事は管理組合の承認が必要ですので、事前に確認しましょう。
必要な設備工事としては、次のようなものが挙げられます。
・消防設備の設置(消火器、火災報知器、誘導灯など)
・防犯設備の強化(セキュリティロック、監視カメラなど)
・騒音対策(防音材の施工、二重窓の設置など)
・Wi-Fi環境の整備
・スマートロックの導入(遠隔での鍵の受け渡しが可能に)
特にマンションでの民泊では、騒音対策は非常に重要です。フローリングの上にラグを敷く、壁に吸音材を施工するなど、周辺住戸への配慮を忘れないようにしましょう。
次に、必要な備品類です。
・寝具一式(ベッド、マットレス、枕、シーツ、布団など)
・タオル類(バスタオル、フェイスタオル)
・家電製品(テレビ、冷蔵庫、電子レンジ、炊飯器など)
・調理器具・食器類
・清掃用具
・アメニティグッズ(シャンプー、ボディソープなど)
・多言語対応の説明書(設備の使い方、緊急時の連絡先など)
・周辺情報マップ
・避難経路図
これらの備品は、一般の住宅用とは異なり、耐久性や安全性に配慮したものを選ぶことが重要です。特に防火対策として、カーテンやベッドカバーなどには防炎製品を使用することが求められます。
また、宿泊者の国籍や文化的背景を考慮した備品の準備も、満足度向上につながります。例えば、海外からの宿泊者が多い場合は、変換プラグや多言語対応の説明書、宗教上の配慮が必要な備品なども検討しましょう。
近隣住民へ説明する
マンションでの民泊成功の鍵を握るのが、近隣住民への丁寧な説明と理解の獲得です。特に隣接する住戸や上下階の住民は、民泊による影響を直接受ける可能性がありますので、事前の説明は必須と言えるでしょう。
説明の方法としては、以下のような手段があります。
・個別訪問による直接説明
・説明会の開催
・説明文書の配布
どの方法を選ぶにせよ、以下の内容を丁寧に説明することが重要です。
・民泊を始める理由と運営方針
・宿泊者の想定と受入れ人数の上限
・運営上のルール(騒音防止、ごみ出し方法など)
・トラブル発生時の対応体制
・管理者の連絡先
説明の際には、一方的に「やります」と伝えるのではなく、住民の懸念や質問に誠実に向き合う姿勢が大切です。特によくある懸念点として、以下のようなものが挙げられます。
・騒音問題(特に夜間)
・セキュリティ面の不安
・ごみ出しルールの遵守
・共用施設の使用方法
・緊急時の対応
これらの懸念に対して、具体的な対策を示すことで信頼を得ることができます。例えば、騒音対策として静かな時間帯のルールを設け、違反した宿泊者は即時退去させるといった毅然とした対応方針を示すことも効果的です。
また、「試験運用期間」を設け、その間の状況を踏まえて継続するかどうかを再検討するという提案も、住民の懸念を和らげる一つの方法です。定期的に状況報告を行うなど、継続的なコミュニケーションの姿勢を示すことも重要です。
申請書を提出する
すべての準備が整ったら、いよいよ民泊の正式な申請手続きに入ります。住宅宿泊事業を行うためには、都道府県知事または保健所設置市等の長に届出を行う必要があります。申請先は物件の所在地によって異なりますので、事前に確認しておきましょう。
申請に必要な書類は主に以下のようなものです。
・住宅宿泊事業届出書(第1号様式)
・定款または寄附行為(法人の場合)
・登記事項証明書(法人の場合)
・住宅の図面(間取り図、設備の位置が分かるもの)
・住宅の登記事項証明書
・欠格事由に該当しないことを誓約する書面
・消防法令適合通知書(物件によっては必要)
・管理組合の同意書(マンションの場合)
・賃貸借契約書の写し(賃貸物件の場合)
・貸主の転貸承諾書(賃貸物件の場合)
・近隣住民への説明実施報告書(自治体によっては必要)
・本人確認書類の写し(住民票、運転免許証など)
申請書提出後、通常は書類審査と現地確認が行われます。現地確認では、申請内容と実際の物件状況が一致しているか、法令で定められた設備が適切に設置されているかなどがチェックされます。
審査の結果、問題がなければ届出番号が発行され、民泊標識(届出住宅であることを示す標識)が交付されます。この標識は、外部から見やすい場所に掲示することが法律で義務付けられています。
なお、申請から届出番号取得までの期間は、自治体や申請時期によって異なりますが、おおよそ2週間〜1ヶ月程度かかることが一般的です。繁忙期(年度末など)は特に時間がかかる傾向がありますので、余裕を持ったスケジュールで計画しましょう。
まとめ
マンションでの民泊は、一律に禁止されているわけではないものの、管理規約や法律による様々な制約があることをご理解いただけたでしょうか。多くのマンションでは、騒音問題やセキュリティ懸念、建物の用途制限などを理由に、管理規約で民泊を禁止しています。
しかし、諦める前に検討すべき道はまだあります。管理組合との丁寧な対話、用途地域の確認、法的要件の理解と準備、近隣住民への説明など、一つひとつのステップを着実に進めることで、合法的な民泊運営の可能性が開けるかもしれません。
特に重要なのは、関係者との信頼関係構築です。一方的に民泊を始めるのではなく、管理組合や近隣住民の懸念に真摯に向き合い、具体的な対策を示すことが成功への鍵となります。マンションという共同住宅の特性を理解し、他の区分所有者の権利も尊重する姿勢で進めていくことが、長期的に安定した民泊運営につながるでしょう。