「民泊で儲かる」と聞いて始めたのに、思うように予約が入らない。同じエリアの物件との価格競争に巻き込まれ、収益が伸び悩んでいる—。民泊オーナーの多くがこうした悩みを抱えています。かつては新規参入者でも簡単に収益を上げられるとされていた民泊市場も、今や完全なレッドオーシャン状態となり、生き残りが厳しくなっています。しかし、こうした厳しい競争環境の中でも安定した収益を上げている運営者は確かに存在します。

この記事では、民泊市場がレッドオーシャン化した原因を探りながら、競争から抜け出すための物件選びのポイントや、差別化戦略について詳しく解説します。
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民泊市場はなぜレッドオーシャンなのか?

レッドオーシャン

民泊市場はかつて、「誰でも簡単に始められる」「高収益が見込める」と言われた民泊ビジネスでした。現在は大都市圏や人気観光地では、物件の供給過多により価格競争が激化し、収益性の低下が顕著になっています。

民泊市場の競争が激化する背景

民泊市場の競争激化には、いくつかの明確な要因があります。まず第一に、参入障壁の低さが挙げられます。住宅宿泊事業法の施行により、法的な枠組みが整備されたことで、個人でも比較的容易に民泊ビジネスを始められるようになりました。空き部屋や投資用物件を活用して、特別なスキルがなくても開業できることから、多くの参入者が市場に殺到したのです。

次に、民泊仲介プラットフォームの普及も大きな要因です。Airbnbをはじめとする予約サイトの台頭により、個人でも世界中の旅行者にアプローチできる環境が整いました。これにより、以前なら集客に苦労していた小規模な宿泊施設でも、国内外の観光客を取り込めるようになった反面、同じプラットフォーム上で無数の競合と直接競争することになりました。

さらに、インバウンド需要の変化も見逃せません。新型コロナウイルスの流行前は、訪日外国人観光客の増加が民泊需要を支えていましたが、パンデミック以降はその構造が大きく変わりました。コロナ禍で一時的に需要が蒸発した後、インバウンド回復期には旅行スタイルや宿泊先の選択基準も変化しています。

また、ホテルチェーンや不動産デベロッパー、政府系金融機関の日本政策投資銀行(DBJ)の参入により競争が加速しました。当初は個人オーナーが中心だった市場に、資本力のある企業が複数物件を運営するケースが増え、専門的な運営ノウハウや効率的な管理システムを持つプレイヤーとの競争を強いられるようになりました。

加えて、行政による規制強化も市場環境に影響を与えています。条例による営業日数の制限や、防火設備など安全基準の厳格化により、運営コストが上昇し収益を圧迫しています。特に住宅密集地では、近隣住民からの騒音やゴミ問題などの苦情対応も必要となり、運営の負担が増大しています。

こうした背景から、物件数の増加が宿泊料金の下落を招き、一泊あたりの収益が減少傾向にあります。特に都心部では、類似した物件が乱立し価格競争に陥っているケースが多く見られます。

民泊市場のレッドオーシャン化は、単なる一時的な現象ではなく、市場の成熟化に伴う構造的な変化と捉えるべきでしょう。かつての「簡単に儲かる」というイメージは過去のものとなり、今後はより戦略的な運営が求められる時代に入っています。

レッドオーシャン脱却に有効な物件タイプは?

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民泊市場の競争激化が進む中、単なる「部屋貸し」では差別化が難しくなっています。レッドオーシャンから抜け出すには、他の民泊物件と一線を画す特徴を持った物件選びが重要になります。

多くの運営者が苦戦する中でも、高い稼働率と収益性を維持している物件には、明確な共通点があります。宿泊者のニーズを深く理解し、それに応える物件を選ぶことで、価格競争に巻き込まれない独自のポジションを確立できるのです。

テーマ性のある物件

テーマ性を持たせた民泊物件は、単なる宿泊場所以上の価値を提供することで、競争から一歩抜け出すことができます。

テーマ設定の際に重要なのは、ただ表面的なデザインに留まらず、体験全体を考慮することです。京都の町家風民泊では、畳の部屋だけでなく、茶道体験や着物レンタルサービスを提供することで、宿泊料金以外の収益源も確保しています。

特にSNS映えするデザインの物件は、宿泊者自身が情報を拡散してくれるため、広告費を抑えながらも認知度を高められるメリットがあります。

テーマ性のある物件は初期投資がかかる面もありますが、価格競争に巻き込まれにくく、リピーターも獲得しやすいため、長期的な収益性では優位に立てます。

一棟貸し物件

一棟丸ごと貸し切れる物件は、プライバシーを重視するグループ客から高い支持を得ています。特に家族連れや友人グループは、ホテルの複数の部屋に分かれて宿泊するよりも、共有スペースで一緒に過ごせる一棟貸しを好む傾向にあります。

一棟貸しの最大の魅力は、他の宿泊客を気にせず自由に過ごせる点です。子どもが騒いでも、夜遅くまで談笑しても気兼ねなく利用できることから、特に小さな子どもがいる家族連れには大きなメリットとなります。また、キッチンや居間などの共有スペースが充実していることで、ホテルでは味わえない「暮らすような旅」の体験価値も提供できます。

一棟貸し物件は取得コストが高い反面、客単価も高く設定できるため、回転率よりも滞在単価を重視する戦略と相性が良いでしょう。
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3LDKや広めの間取り

3LDKなど広めの間取りの物件は、多人数で宿泊するグループに対して費用対効果の高い選択肢となります。通常のホテルでは複数室を予約する必要があるグループにとって、1つの物件で全員が宿泊できる点は大きな魅力です。

特に、リビングやダイニングなどの共有スペースが充実している物件は、単に寝るだけでなく、一緒に料理を作ったり、会話を楽しんだりといった体験の場を提供できます。また、キッチンの設備が整っていれば、長期滞在者や自炊を好む旅行者からの支持も得やすくなります。

広めの間取りの物件では、宿泊人数に応じた柔軟な料金設定も可能で、例えば基本料金に追加人数分の費用を上乗せする方式にすることで、少人数でも多人数でも収益性を確保できる点も魅力です。

都市近郊・アクセス良好の物件

立地は民泊の成功を左右する最も重要な要素の一つです。特に、都市部の中心地から少し離れた近郊エリアで、公共交通機関へのアクセスが良好な物件は、コストパフォーマンスに優れた選択肢として注目されています。

都市中心部の物件は競争が激しく、物件取得コストも高くなりがちです。一方、近郊エリアは物件費用を抑えられる上に、都心に比べて競合も少ないため、適切な物件選びをすれば高い収益性を維持できます。

重要なのは、最寄り駅からの距離です。駅から徒歩10分以内の物件は、特に荷物を持った旅行者に強く支持されます。また、空港や主要観光地へのアクセスの良さも大きなセールスポイントになります。

都市近郊の物件は、観光客だけでなく、ビジネス目的の宿泊者も取り込める点も魅力です。平日はビジネス客、週末は観光客というように、異なるターゲット層を組み合わせることで、稼働率の平準化も図れます。

近郊エリアでも、周辺環境は重要です。飲食店や商業施設、コンビニなどの生活インフラが充実している地域は、特に外国人観光客から選ばれやすいです。自然環境に恵まれた地域であれば、都会の喧騒を離れてリラックスしたい旅行者にアピールできるでしょう。

これらの物件タイプは、単独でも効果的ですが、複数の要素を組み合わせることでさらに差別化が可能になります。

レッドオーシャンでも民泊運営を成功させるためには

民泊

民泊市場がレッドオーシャン化する中でも、適切な戦略と運営方法によって、安定した収益を上げている運営者は存在します。厳しい競争環境だからこそ、従来の常識にとらわれない柔軟な発想と緻密な運営計画が求められます。

市場全体が飽和状態にあっても、個々の運営者レベルでは差別化の余地があり、工夫次第で十分に成功できる可能性が残されています。

ターゲット層を明確に絞る

民泊運営で成功するための最重要ポイントは、「誰に向けた宿泊施設なのか」というターゲット設定です。「誰にでも来てほしい」という考え方では、結局「誰にも選ばれない」物件になりかねません。ターゲットを絞ることで、そのニーズに特化したサービスを提供できるようになります。

例えば、訪日外国人観光客をターゲットにする場合、言語対応は必須です。英語だけでなく、近年増加している東南アジアからの観光客に向けて、多言語対応の案内を用意することで、予約率の向上につながります。また、日本文化に興味がある外国人向けには、茶道体験や着付け体験などを提供する物件が高い評価を得ています。

ターゲットを明確にすることで、広告やプロモーションも効率化できます。SNSやブログを活用して、ターゲット層に響くコンテンツを発信することで、予約サイト以外の集客チャネルも構築できるでしょう。

物件の強みを最大限に活かす

どんな物件にも、必ず強みや特徴があります。その特性を見極め、最大限に活かすことが成功への近道です。立地、設備、コンセプトなど、自分の物件ならではの魅力を徹底的に磨き上げましょう。

立地の強みがある場合、その特性に合わせた訴求が効果的です。駅近物件なら「徒歩〇分」を全面に押し出し、主要観光地に近ければその利便性をアピールしましょう。

設備面での差別化も重要です。高級家電や上質なアメニティを揃えた「ラグジュアリー民泊」や、こだわりの調理器具を備えた「キッチン特化型」など、設備の充実度で差別化を図る方法もあります。特に、日常では使わないような高級家電や調理器具は、宿泊体験の満足度を高める要素になります。

重要なのは、強みをただ持っているだけでなく、それを宿泊者に伝えることです。写真撮影には特にこだわり、プロのカメラマンを起用するなど、物件の魅力が最大限に伝わる工夫が必要です。予約サイトの説明文も、ただ設備を列挙するのではなく、その物件での体験価値を具体的に描写することが大切です。

競合を徹底的に分析する

民泊は「見える化された競争市場」です。特に予約サイトでは、同じエリア内の競合物件の価格設定やサービス内容、評価がすべて可視化されています。この環境を活用し、競合分析を徹底することで、自分の物件のポジショニングを最適化できます。

まず、同エリア内の競合物件の価格帯を調査しましょう。単純に安くするのではなく、価格と提供価値のバランスを検討します。競合より高い価格設定をする場合は、その価格差を正当化できる付加価値が必要です。逆に、価格を抑える場合でも、最低限の質は確保する必要があります。

次に、競合物件の評価やレビューを分析します。「清潔感がある」「ホストの対応が良い」など肯定的な評価の要素を学ぶと同時に、「騒音が気になる」「アメニティが不足している」などの否定的な評価から改善点を見つけましょう。これにより、競合の弱点を自分の強みに変える戦略を練ることができます。

また、予約の入り方のパターンも観察価値があります。競合物件の予約状況から、需要の高い時期やイベントを把握し、自分の価格戦略に活かすことができます。

さらに、競合物件が提供しているサービスや特典も参考になります。朝食サービス、送迎サービス、体験プログラムなど、差別化要素として何が効果的かを判断する材料になります。ただし、単に真似るのではなく、自分の物件やターゲットに合わせたアレンジが重要です。

競合分析は一度で終わるものではなく、定期的に行うことで市場の変化に対応できます。特に、新規参入者の動向や価格変動には敏感になり、必要に応じて自分の戦略も柔軟に調整していきましょう。

民泊M&A仲介を使用する

近年、民泊業界ではM&A(合併・買収)の動きが活発化しています。既に運営実績のある民泊物件を取得することで、ゼロからの立ち上げに比べて多くのメリットがあります。民泊M&A仲介サービスを活用することで、効率的に良質な物件を見つけることが可能です。

M&Aのメリットとして、まず既存の評価やレビューを引き継げる点が挙げられます。民泊では運営開始直後の集客が難しいですが、既に高評価を得ている物件であれば、初期段階から安定した予約を見込めます。また、リピーターの顧客基盤も引き継げるため、マーケティングコストの削減にもつながります。

さらに、運営ノウハウや地域とのつながりも一緒に取得できます。例えば、清掃業者や鍵の受け渡し方法など、運営に必要な体制が既に構築されているケースが多く、スムーズに運営を開始できます。また、地域の特性や季節ごとの需要変動なども、前オーナーから情報を得られるメリットがあります。

民泊M&A仲介サービスでは、売却理由や収益性、将来性などを第三者の視点で評価してくれるため、客観的な判断材料を得られます。また、価格交渉や契約手続きのサポートも受けられるため、安心して取引を進められるでしょう。

ただし、M&Aを検討する際には、物件の実績や評価の信頼性を慎重に確認することが重要です。過去の予約データや収支報告書などを詳細に分析し、将来の収益性を正確に予測することが必要です。また、引き継ぎ後の運営方針についても、前オーナーとしっかり話し合い、スムーズな移行を図ることが大切です。
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賃貸物件で民泊を始め100万円程度まで費用を抑える

民泊を始める際の大きな障壁の一つが初期投資です。しかし、賃貸物件を活用することで、物件購入に比べて大幅にコストを抑えることが可能です。工夫次第で初期費用を100万円程度に抑え、リスクを最小限に抑えながら民泊ビジネスに参入する方法を検討しましょう。

まず、物件選びが重要です。すでに家具付きの物件を選ぶことで、家具・家電の購入費用を大幅に削減できます。また、「民泊可」として明示されている物件を選ぶことで、後々のトラブルを避けられます。

初期費用を抑える工夫として、IKEAやニトリなどの手頃な価格の家具・家電を活用するのも効果的です。ただし、寝具やタオルなど、ゲストが直接触れるものは質を落とさないようにしましょう。

また、清掃については、初期段階では自分で行うことでコストを抑えられます。予約が増えてきた段階で、徐々に外部委託を検討するとよいでしょう。また、地域の主婦層などと個別契約することで、清掃会社に依頼するよりも費用を抑えられる場合もあります。

重要なのは、最小限の投資で始め、収益を見ながら段階的に設備やサービスを充実させていく考え方です。いきなり完璧を目指すのではなく、ゲストの反応を見ながら、本当に必要なものに投資していくことで、効率的な運営が可能になります。

レッドオーシャン化が進む民泊市場でも、これらの戦略を組み合わせることで、十分に競争力のある運営が可能です。大切なのは、市場全体の動向に振り回されるのではなく、自分の強みを活かした独自のポジションを確立することです。差別化された価値提供と効率的な運営体制の構築により、厳しい競争環境でも持続可能なビジネスモデルを実現できるでしょう。
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まとめ

民泊市場のレッドオーシャン化は避けられない現実ですが、その中でも成功する道は確かに存在します。重要なのは、「誰でも簡単に稼げる」という幻想から脱却し、戦略的な物件選びと運営方法を実践することです。テーマ性のある物件や一棟貸し、3LDKなどの広めの間取り、アクセス良好な物件など、明確な強みを持った物件を選ぶことが第一歩となります。

さらに、ターゲットを明確に絞り、物件の強みを最大限に活かす運営戦略、競合分析に基づく価格設定など、細部にわたる工夫が求められます。初期投資を抑えた参入方法も視野に入れることで、リスクを最小化しながら市場に参入することも可能です。

レッドオーシャンの波に飲み込まれるのではなく、その波を乗りこなすための知恵と戦略を身につけることで、厳しい競争環境でも持続可能な民泊ビジネスを構築できるでしょう。