「民泊を始めようと思うけど、上乗せ条例って何?」「自分の物件がある地域では民泊ができるの?」と悩んでいませんか?民泊新法(住宅宿泊事業法)が施行されたものの、各自治体が独自に設ける「上乗せ条例」によって、営業できる日数や地域が大きく制限されるケースが数多くあります。
知らないまま事業計画を立てると、後から「この地域では週末営業ができない」「住居専用地域では民泊禁止」などの壁にぶつかり、投資が無駄になるリスクも。
この記事では、上乗せ条例の基本から東京23区の区ごとの規制内容まで、民泊事業を成功させるために必要な情報をわかりやすく解説します。
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民泊新法の上乗せ条例とは?

民泊新法(住宅宿泊事業法)は2018年6月に施行され、それまでグレーゾーンだった民泊を合法化しました。しかし、この法律には全国一律の基準だけでなく、各自治体が独自の規制を追加できる「上乗せ条例」の仕組みが盛り込まれています。この上乗せ条例によって、民泊事業の運営条件は地域によって大きく異なります。
上乗せ条例の内容は自治体によって異なりますが、主な規制対象は「営業日数の制限」「営業区域の制限」「届出に必要な書類の追加」などです。
それでは、上乗せ条例が制定される背景や具体的な規制内容について、より詳しく見ていきましょう。
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上乗せ条例が制定される主な理由
上乗せ条例は自治体が独自に制定するものですが、なぜ多くの自治体がこうした条例を設けているのでしょうか。背景には複数の要因があります。
まず、「地域特性への配慮」が挙げられます。観光地を抱える自治体では、観光客の増加によるメリットを活かしつつ、住環境への影響をコントロールする必要があります。
次に、「住民からの要望」も大きな要因です。民泊が急増した地域では、深夜の騒音やゴミ出しルール違反、セキュリティ面での不安など、様々なトラブルが報告されています。住民からの苦情や要望を受け、自治体は住環境を守るための対策として上乗せ条例を制定するケースが多いのです。
さらに、「既存の宿泊業との調整」も重要な側面です。ホテルや旅館などの既存宿泊施設は、消防法や旅館業法など厳格な規制の下で営業しています。民泊に対する規制があまりに緩いと、既存業界との間に不公平感が生じます。そのため、一定の規制を設けることで、バランスを取る意図もあります。
「行政サービスの負担増加」への対応も理由の一つです。観光客が急増すると、ゴミ収集やインフラ整備など行政サービスへの負担が増加します。特に住宅地に観光客が増えると、従来の住民向けサービスだけでは対応しきれなくなるため、一定の制限を設けて行政サービスの質を維持しようとしています。
こうした複合的な理由から、多くの自治体は民泊新法の基準に上乗せする形で、地域の実情に合わせた規制を設けているのです。次に、その具体的な規制内容を見ていきましょう。
上乗せ条例の代表的な規制内容
上乗せ条例による規制内容は多岐にわたりますが、民泊事業者にとって特に重要なのは以下の点です。
「営業可能な用途地域の制限」は最も一般的な規制です。民泊新法では基本的にどの用途地域でも営業可能ですが、上乗せ条例によって第一種低層住居専用地域や第二種低層住居専用地域などでの営業を禁止している自治体が多くあります。
「営業日数の制限」も重要な規制です。民泊新法では年間180日(半年)までの営業が認められていますが、上乗せ条例によってさらに短い期間に制限している自治体もあります。たとえば、大阪市の一部地域では宿泊施設が不足している平日のみの営業に制限したり、東京都の一部の区では住居専用地域での営業日数を60日に制限したりしています。営業日数の制限は収益計画に直接影響するため、事業計画を立てる際には必ず確認が必要です。
「届出時の追加書類」も見逃せない規制です。民泊新法で定められた届出書類に加え、上乗せ条例では近隣住民への事前説明の証明や管理規約の写し、さらには地域のルールへの同意書など、追加の書類提出を求めるケースがあります。これらの書類準備には時間がかかるため、開業スケジュールに影響することを念頭に置くべきです。
「管理体制に関する追加要件」も多くの自治体で見られます。例えば、民泊管理者の駆けつけ時間を30分以内に制限したり、近隣住民からの苦情を24時間受け付ける体制の整備を求めたりするケースがあります。これらの要件は運営コストに直結するため、事前の確認が欠かせません。
「家主居住型と家主不在型の区別」による規制も注目すべき点です。家主が同じ建物に住んでいる「家主居住型」の民泊に対しては規制を緩和し、オーナーが別の場所に住む「家主不在型」には厳しい条件を課す自治体もあります。例えば、東京都の文京区や中野区では、家主不在型の民泊に対して厳しい制限を設けています。
このように、上乗せ条例の内容は自治体によって大きく異なります。
上乗せ条例で営業可能日数はどう変わる?

民泊新法(住宅宿泊事業法)では原則として年間180日(半年)までの営業が認められていますが、上乗せ条例によってこの営業日数が大幅に制限されるケースが数多くあります。この制限は地域によって異なり、民泊事業の収益性や事業計画に直接影響する重要な要素です。
営業日数制限の例を見ると、その厳しさが理解できます。東京都の千代田区、中央区、港区などでは住居専用地域において民泊営業を原則禁止としています。また、大阪市の一部地域では平日のみの営業に限定するなど、地域特性に応じた細かな規制が存在します。
こうした制限は単に「半年以内の営業」という基準を厳しくするだけでなく、「営業できる曜日や時期を限定する」という形で設けられることもあります。例えば、「土日祝日は営業禁止」という条例は、観光客の多い週末に営業できないため、収益機会を大きく制限することになります。
条例の内容を正確に把握することは、持続可能な民泊事業を展開するための第一歩です。次に、こうした営業日数制限が事業にどのような影響を与えるのか、より具体的に見ていきましょう。
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営業日数制限が事業に与える影響
営業日数の制限は民泊事業の根幹に関わる問題であり、様々な面で事業計画に影響します。最も直接的な影響は「収益性の低下」です。例えば、年間180日から60日に制限された場合、単純計算で収入は1/3に減少します。しかも、一般的に民泊の需要が高いのは週末や祝日、観光シーズンですが、これらの期間に営業制限がかかると、さらに収益機会は限られます。
実際には、営業日数が制限されても固定費はほとんど変わりません。物件の家賃や管理費、設備投資のコストは営業日数に関わらず発生します。つまり、営業日数の制限は固定費回収の機会を減らし、採算ラインを大きく引き上げることになります。
対策として、「撮影スタジオ」や「コワーキングスペース」、「イベントスペース」など、宿泊以外の用途で収益化を図る民泊事業者も増えています。
営業可能日数が減るエリアの特徴
営業日数に厳しい制限を設ける地域には、いくつかの共通した特徴があります。これらの特徴を理解することで、民泊事業の立地選定や事業計画の策定に役立てることができます。
「住宅密集地」は最も厳しい制限が設けられる傾向にあります。特に第一種低層住居専用地域や第二種低層住居専用地域などの住居専用地域では、住環境の保全が最優先されるため、民泊の営業そのものを禁止したり、極めて限定的な条件下でのみ許可したりする自治体が多いです。
「高級住宅街」も制限が厳しいエリアの一つです。資産価値の高い住宅地では、住民の民泊に対する抵抗感が強く、自治体も住民の要望に応える形で厳しい制限を設ける傾向があります。
「観光地周辺」では、一見すると民泊に適したエリアに思えますが、実は既存の宿泊施設との競合や住環境への影響を考慮して、厳しい営業制限が設けられるケースが増えています。
反対に、比較的緩やかな規制となる傾向があるのは以下のようなエリアです。「商業地域」や「近隣商業地域」は、もともと様々な商業活動が行われているエリアであり、民泊に対する制限も比較的緩やかな傾向があります。
「新興住宅地」や「マンション」では、管理規約などで民泊を禁止していなければ、比較的営業しやすい傾向があります。ただし、これらの地域でも住民からの苦情が増えると、後から条例が厳しくなる可能性もあるため、注意が必要です。
東京23区の上乗せ条例について

東京23区では、民泊新法の施行に合わせて各区が独自の上乗せ条例を制定しています。これらの条例は区ごとに異なり、営業区域の制限や営業日数の制限、家主居住型と家主不在型の取り扱いの違いなど、様々な規制が設けられています。
以下ではm各区の主な規制内容を紹介します。
千代田区
千代田区では住居専用地域での民泊営業を原則禁止としています。それ以外の地域でも、マンションなどの共同住宅では管理規約で民泊が認められている場合のみ営業可能です。
家主居住型は比較的規制が緩やかですが、家主不在型には厳しい届出要件があります。特に観光客が多いエリアであるため、騒音やゴミ問題への対策が重視されています。
中央区
中央区は商業地域が多いものの、住居系地域では厳しい規制を設けています。特に住居専用地域では原則として民泊営業が禁止されています。また、マンションなどの集合住宅では、管理組合の許可が必須となり、近隣住民への事前説明も求められます。
銀座や日本橋など観光客の多いエリアでは、騒音対策や緊急時の対応体制の整備が厳格に求められます。
港区
港区は高級住宅地と商業地域が混在するエリアです。住居専用地域での民泊営業は原則禁止で、その他の地域でも厳しい条件が設けられています。
特に外国人観光客の利用が多いため、多言語対応や24時間の管理体制が求められます。家主不在型の民泊は特に厳しく規制されており、届出時の書類も多岐にわたります。
新宿区
新宿区では住居専用地域での民泊営業に制限を設けています。特に住環境保全地域では、週末や祝日の営業が制限される場合があります。
繁華街に近い地域では、騒音やセキュリティ面での対策が厳しく求められます。家主不在型の民泊には、特に厳格な管理体制の整備が求められ、緊急時の駆けつけ時間なども具体的に定められています。
文京区
文京区は教育施設や文化施設が多く、静かな住環境が重視されるエリアです。住居系地域では厳しい規制があり、特に家主不在型の民泊には厳格な条件が課されています。
区内の多くの地域で、年間の営業日数が制限されているほか、教育施設の周辺では特別な規制が設けられている場合もあります。
台東区
台東区は観光地を多く抱える区であり、浅草や上野など外国人観光客も多いエリアです。比較的民泊に対する規制は他区より緩やかですが、住居専用地域では制限があります。
特に観光客が多いエリアでは、騒音対策や多言語対応が求められます。家主居住型の民泊は比較的営業しやすい環境にあります。
墨田区
墨田区はスカイツリーの影響で観光客が増加しているエリアです。住居専用地域での制限はありますが、比較的民泊に対する規制は緩やかです。
ただし、マンションなどの集合住宅では管理組合の許可が必要で、近隣への事前説明も求められます。観光客向けの案内や緊急時の対応体制の整備が重視されています。
江東区
江東区は新興の高層マンションが多いエリアです。住居専用地域での制限はありますが、商業地域や近隣商業地域では比較的営業しやすい環境です。
ただし、多くの集合住宅では管理規約で民泊が禁止されているケースが多いため、事前確認が必要です。有明や豊洲など、イベント会場に近いエリアでは需要が高い傾向にあります。
品川区
品川区はビジネス街と住宅街が混在するエリアです。住居専用地域での民泊には厳しい制限がありますが、駅周辺の商業地域では比較的営業しやすい環境です。
特にビジネス客向けの需要が高いため、長期滞在者向けの設備や静かな環境の確保が重視されます。家主不在型には管理体制の厳格化が求められます。
目黒区
目黒区は高級住宅地が多く、住環境の保全が特に重視されています。住居専用地域での民泊営業には厳しい制限があり、その他の地域でも近隣住民への配慮が強く求められます。
特に中目黒や自由が丘など人気エリアでは、騒音対策や防犯対策が厳格に求められます。家主居住型でも厳しい条件が設けられている場合があります。
大田区
大田区は羽田空港に近く、訪日外国人の需要が高いエリアです。住居専用地域での制限はありますが、空港周辺や駅周辺の商業地域では比較的営業しやすい環境です。
特に空港利用者向けの短期滞在の需要が高く、多言語対応や交通案内の充実が求められます。家主不在型でも、適切な管理体制があれば営業しやすい傾向にあります。
世田谷区
世田谷区は広大な住宅地を抱える区です。住居専用地域での民泊には厳しい制限があり、特に高級住宅地では近隣住民の反対も強い傾向にあります。
営業が認められる地域でも、騒音対策や防犯対策が厳しく求められます。家主居住型と家主不在型で規制の厳しさが異なり、家主不在型には特に厳格な条件が課されています。
渋谷区
渋谷区は若者文化の中心地であり、観光客も多いエリアです。住居専用地域での民泊には制限がありますが、駅周辺の商業地域では比較的営業しやすい環境です。
特に外国人観光客の需要が高いため、多言語対応や24時間の管理体制が求められます。騒音対策や緊急時の対応体制の整備が特に重視されています。
中野区
中野区は住宅地と商業地が混在するエリアです。住居専用地域での民泊には制限があり、特に学校周辺では厳しい規制が設けられています。
家主不在型の民泊には厳格な管理体制が求められ、近隣住民への事前説明も必須です。中野駅周辺の商業地域では比較的営業しやすい環境にありますが、騒音対策は厳しく求められます。
杉並区
杉並区は住宅地が多く、住環境の保全が重視されるエリアです。住居専用地域での民泊営業には厳しい制限があり、その他の地域でも近隣住民への配慮が強く求められます。
特に家主不在型の民泊には厳格な管理体制が求められ、騒音対策やゴミ出しルールの徹底が重視されています。
豊島区
豊島区は池袋を中心に商業地域と住宅地が混在するエリアです。住居専用地域での民泊には制限がありますが、池袋駅周辺の商業地域では比較的営業しやすい環境です。
特に外国人観光客やビジネス客の需要が高いため、多言語対応や安全対策が求められます。家主不在型には厳格な管理体制の整備が求められます。
北区
北区は住宅地と工業地域が混在するエリアです。住居専用地域での民泊には制限がありますが、駅周辺の商業地域では比較的営業しやすい環境です。
家主居住型の民泊は比較的規制が緩やかですが、家主不在型には管理体制の厳格化が求められます。近隣住民への事前説明や騒音対策が重視されています。
荒川区
荒川区は下町風情が残るエリアです。住居専用地域での民泊には制限がありますが、商業地域や近隣商業地域では比較的営業しやすい環境です。
特に日暮里は成田空港へのアクセスが良いため、訪日外国人の需要が高いエリアです。家主居住型は比較的規制が緩やかですが、防火対策や騒音対策は厳しく求められます。
板橋区
板橋区は住宅地と工業地域が混在するエリアです。住居専用地域での民泊には制限がありますが、駅周辺の商業地域では比較的営業しやすい環境です。
家主不在型の民泊には厳格な管理体制が求められ、近隣住民への事前説明も必須です。騒音対策やゴミ出しルールの徹底が特に重視されています。
練馬区
練馬区は広大な住宅地を抱える区です。住居専用地域での民泊には厳しい制限があり、特に学校や公園周辺では特別な規制が設けられている場合があります。
家主不在型の民泊には厳格な管理体制が求められ、近隣住民への配慮が強く求められます。家主居住型は比較的規制が緩やかな傾向にあります。
足立区
足立区は住宅地と商業地域が混在するエリアです。住居専用地域での制限はありますが、駅周辺の商業地域では比較的営業しやすい環境です。
特に北千住は交通の便が良いため、ビジネス客の需要も見込めます。家主居住型は比較的規制が緩やかですが、家主不在型には管理体制の厳格化が求められます。
葛飾区
葛飾区は下町風情が残るエリアです。住居専用地域での民泊には制限がありますが、商業地域や近隣商業地域では比較的営業しやすい環境です。
特に柴又は観光地として人気があり、観光客向けの民泊需要が見込めます。家主居住型は比較的規制が緩やかですが、近隣住民への配慮が強く求められます。
江戸川区(葛西・小岩・船堀)
江戸川区は住宅地が多いエリアです。住居専用地域での民泊には制限がありますが、駅周辺の商業地域では比較的営業しやすい環境です。
特に葛西はディズニーリゾートへのアクセスが良いため、観光客の需要が高いエリアです。家主不在型には厳格な管理体制が求められますが、適切な対応があれば営業しやすい傾向にあります。
東京23区の民泊規制は区ごとに大きく異なるため、民泊事業を検討する際には、該当区の最新の条例を必ず確認してください。また、条例は改正されることもあるため、定期的な情報収集も重要です。各区の公式ホームページや窓口で最新情報を入手することをお勧めします。
まとめ
民泊新法の上乗せ条例は、各自治体が地域特性や住民要望に応じて独自に設ける規制であり、民泊事業の成否を左右する重要な要素です。住居専用地域での営業禁止や、年間営業日数の制限(180日から60日や平日のみに制限するなど)、届出時の追加書類要求、管理体制の厳格化など、多岐にわたる規制内容があります。特に都市部の住宅密集地や高級住宅街、人気観光地などでは厳しい制限が設けられる傾向にあり、東京23区でも区ごとに大きく異なる規制内容となっています。
民泊事業を始める前には、物件所在地の自治体の条例を詳細に確認し、収益計画や運営方法を適切に設計することが不可欠です。条例は改正されることもあるため、定期的な情報収集も欠かせません。地域との共存を前提に、上乗せ条例をしっかり理解した上で、創意工夫を凝らした運営を心がけましょう。各自治体のホームページや窓口で最新情報を入手し、必要に応じて専門家(行政書士や民泊コンサルタントなど)に相談することをお勧めします。