民泊運営を始めたいが、賃貸物件でどのような契約を結べばいいのか分からない。オーナーの許可は口頭で得たが、これだけで大丈夫なのか不安だ。契約書に何を盛り込めばトラブルを避けられるのか。こうした悩みを抱えている方は決して少なくありません。
実際のところ、通常の賃貸借契約では民泊運営は法的に転貸とみなされ、オーナーの明確な承諾なしには違法行為となります。口約束だけで民泊を始めた結果、突然の契約解除や高額な違約金請求に直面するケースが後を絶たないのが現実です。民泊運営には通常の居住用賃貸とは全く異なる法的リスクが存在し、適切な契約書なしでは事業の継続そのものが危うくなります。
本記事では、民泊運営に必要な賃貸借契約書の具体的な内容を、実務の観点から徹底解説します。なぜ民泊特約が必須なのか、契約書に何を記載すべきか、どの契約形態を選ぶべきか、などについて紹介します。
民泊特約を契約書に入れる理由

民泊運営を始める際、賃貸借契約書に民泊特約を盛り込むことは形式的な手続きではなく、重要な行為になります。実際のところ、特約の契約がないまま民泊を開始すると、突然の契約解除や高額な違約金を請求されることがあります。
どのような理由で契約書を巻くべきなのでしょうか?
通常の賃貸契約では民泊が禁止されることが多い
日本の賃貸借契約では、民法上の原則として転貸が禁止されています。賃借人が第三者に物件を又貸しする行為は、オーナーの承諾なしには認められていません。民泊運営は宿泊者に有償で部屋を提供する形態であり、法的には転貸に該当すると解釈されるケースが大半です。
実際に標準的な賃貸借契約書を見ると、「賃借人は賃貸人の書面による承諾なしに本物件の全部または一部を転貸してはならない」といった条項が必ず含まれています。この条項があるにもかかわらず、民泊運営を行えば明白な契約違反となり、即座に契約解除の対象になり得るわけです。
加えて、マンションやアパートの場合、管理規約で民泊を明確に禁止している物件が増加しています。国土交通省の調査では、分譲マンションの約8割が民泊を禁止または制限する規約を設けているという実態が明らかになっています。
このような状況下で民泊を合法的に運営するには、契約書に民泊運営を明示的に認める特約を追加し、オーナーの承諾を書面で得ることが絶対条件となります。
大家の許可を明文化して合意形成するため
民泊運営の許可を口頭で得たとしても、それが法的な証拠として認められる可能性は極めて低いのが実情です。不動産取引においては「書面主義」が鉄則であり、口約束は証拠能力が弱く、トラブル発生時には「言った言わない」の争いに発展します。
そのため、民泊特約を契約書に明記することで、オーナーが民泊運営を承諾した事実が客観的な証拠として残り、後からオーナーが「民泊を認めた覚えはない」と主張してきても、契約書という動かぬ証拠で反論できます。
トラブル防止、契約違反リスクの軽減のため
民泊運営で最も避けたいのは、突然の契約解除や法的紛争です。特約なしで民泊を始めた場合、近隣住民からの苦情や騒音問題が発生した際、オーナーは「契約違反」を理由に即座に賃貸借契約を解除できる立場にあります。
通常の賃貸借契約では賃借人に一定の保護がありますが、契約違反がある場合は話が別です。裁判所も契約違反を理由とする解除を認める傾向が強く、賃借人側の救済は困難になります。
民泊への宿泊者の多くは、外国人であり、先進国以外の国の人々も宿泊することもあります。そのため文化の違いが違いゴミや騒音問題がおきます。そうなると契約解除が発生する可能性もあります。
違約金や契約解除などのペナルティ規定を抑止するため
賃貸借契約書には通常、契約違反時の違約金条項が設けられています。標準的な契約では「契約違反があった場合、賃借人は賃料の3ヶ月分相当額を違約金として支払う」といった条項が一般的です。
民泊を無断で運営していた場合、この違約金条項が発動され、実際に運営した期間の賃料総額の3ヶ月分という高額な請求を受けるリスクが現実的に存在します。
そのため、民泊特約を契約書に盛り込むことで、こうした金銭的リスクを根本から回避できます。特約があれば民泊運営自体が合法的な行為となるため、違約金条項の適用対象外となるわけです。
また、予期せぬ高額な違約金を防ぐためにはあるべきです。
民泊賃貸借契約書には何を含めるべきか?

民泊運営を適法かつ安全に行うためには、賃貸借契約書に通常の居住用とは異なる特別な条項を盛り込む必要があります。そのため、以下の内容を要件として入れることをお勧めします。
- 物件の使用目的
- 運営条件と制限事項
- 届出および許可の義務
- 保険加入の義務化
- 近隣対応と苦情処理
- 設備および備品に関する責任
- 営業報告義務
- 中途解約条件と違約金
- 契約違反時のペナルティと契約解除条件
民泊用賃貸借契約の種類と違い

民泊運営を検討する際、どの種類の賃貸借契約を選択するかは事業の成否を左右する極めて重要な判断です。一般的な賃貸借契約には複数の形態があり、それぞれに法的な性質や権利関係が大きく異なります。
民泊という事業目的で物件を借りる場合、通常の居住用とは異なる観点からの契約形態選択が求められ、賃貸人(オーナー)と賃借人(運営者)双方のニーズや将来的なリスクを考慮した上で、最適な契約類型を見極める必要があります。
どのような違いがあるのでしょうか?
普通賃貸借契約
普通賃貸借契約は日本で最も一般的な賃貸借の形態であり、借地借家法による強力な賃借人保護が特徴です。この契約形態では、契約期間満了後も賃借人が更新を希望すれば、賃貸人(オーナー)側に「正当事由」がない限り更新を拒絶できないという法的保護が働きます。正当事由とは「オーナー自身がその物件を使用する必要性がある」といった極めて限定的な理由であり、単に「他の入居者に貸したい」「賃料を上げたい」といった経済的理由では認められません。
民泊運営者の視点から見ると、普通賃貸借契約には明確なメリットがあります。長期的に安定して物件を使用できる権利が法律で保障されているため、初期投資として家具や設備に多額の費用をかけても、契約更新が拒否されるリスクが極めて低いのです。
ただし、オーナー側から見ると普通賃貸借契約にはリスクが存在します。民泊運営が近隣トラブルを引き起こした場合でも、正当事由がなければ契約を解除できず、問題のある運営者を排除するハードルが高いのです。このため、オーナー側が民泊目的での普通賃貸借契約を敬遠するケースも多く、交渉が難航する可能性があります。実務的には、普通賃貸借契約を締結する際には、前述の民泊特約の中で詳細な運営ルールと契約解除条件を設定し、オーナーの不安を軽減する工夫が必要です。
契約期間については、普通賃貸借契約では1年以上の期間設定が一般的であり、期間を定めない契約も可能です。民泊運営の場合、最低でも2年の契約期間を設定し、その後の更新も見据えた長期的な事業計画を立てるのが現実的です。賃料改定についても、契約更新時に交渉の余地がありますが、不当な値上げは借地借家法で制限されているため、運営者側にとって予測可能なコスト管理が可能になります。
定期借家契約
定期借家契約は、普通賃貸借契約とは対照的に、契約期間満了とともに確実に契約が終了する形態です。2000年の借地借家法改正で導入されたこの制度では、更新という概念が存在せず、契約で定めた期間が来れば自動的に賃貸借関係が終了します。再契約は可能ですが、これはあくまで新たな契約の締結であり、賃借人に更新請求権はありません。
民泊運営においては、定期借家契約がオーナー側から好まれるケースが多いのが実情です。なぜなら、民泊運営が近隣トラブルを引き起こしたり、期待した収益が上がらなかったりした場合でも、契約期間満了を待てば確実に賃貸借関係を終了できるからです。
オーナーにとっては、民泊という未知の運営形態を「お試し」で認めやすくなる仕組みと言えます。実際の不動産市場でも、民泊目的での物件貸し出しでは定期借家契約を条件とするオーナーが増加しています。
運営者側から見ると、定期借家契約には不安定さが伴います。契約期間が2年や3年と短く設定された場合、初期投資の回収期間が限定され、事業計画に大きな制約が生じます。期間満了後の再契約交渉も、オーナーの意向次第となるため、長期的な事業展開が困難になる可能性があります。
そのため、定期借家契約で民泊を始める場合は、契約期間を最低でも5年以上に設定し、可能であれば「再契約の優先交渉権」を特約として盛り込むことが望ましいです。
事業用賃貸借契約
事業用賃貸借契約は、店舗やオフィスなどの事業目的での賃貸借に用いられる契約形態です。借地借家法の適用は受けますが、居住用の賃貸借とは異なり、賃借人保護の度合いが弱く設定されています。民泊運営は事業活動であるため、法的にはこの事業用賃貸借契約の枠組みに該当する可能性があります。
事業用賃貸借契約の特徴は、契約条件の自由度が高い点です。普通賃貸借契約のような強力な更新権保護がないため、契約期間や更新条件、中途解約条項などを当事者間で柔軟に設定できます。
民泊運営において事業用賃貸借契約を選択するメリットは、契約内容の自由な設計ができる点にあります。賃料の決済方法を売上連動型にしたり、繁忙期と閑散期で賃料を変動させたりといった、事業実態に即した柔軟な条件設定が可能です。
注意点としては、事業用賃貸借契約では原状回復義務が居住用よりも厳しく適用される傾向があります。民泊運営のために施した内装変更や設備追加については、退去時に完全に元の状態に戻すことが求められるケースが多く、原状回復費用が高額になるリスクがあります。
民泊利用許諾付き賃貸借契約
民泊利用許諾付き賃貸借契約は、近年増加している民泊特化型の契約形態です。これは普通賃貸借契約や定期借家契約をベースとしながら、民泊運営を明示的に許可する特約を詳細に盛り込んだ契約を指します。
この契約形態の最大の特徴は、民泊運営に関する全ての事項が契約書で明文化されている点です。通常の賃貸借契約に後付けで民泊特約を追加する場合と比べ、最初から民泊を前提とした契約設計がなされているため、条項間の矛盾や解釈の齟齬が生じにくくなります。
民泊利用許諾付き賃貸借契約には、通常以下のような詳細な条項が含まれます。まず運営形態の明確化として「住宅宿泊事業法に基づく届出民泊として運営する」あるいは「旅館業法の簡易宿所として運営する」といった法的位置づけを明記します。年間営業日数の上限、1日あたりの宿泊者数制限、宿泊可能時間帯、禁止事項なども具体的に列挙されます。
賃料設定についても、民泊利用許諾付き賃貸借契約では特徴的な取り決めが見られます。通常の居住用賃料よりも高めに設定されるケースが多く、「基本賃料+成功報酬型」の変動賃料制を採用する契約も増えています。
民泊賃貸借契約でトラブルを避けるために

民泊運営でのリスクは多岐にわたり、近隣住民とのトラブル、宿泊者の不適切行為、設備の破損、法令違反など、通常の賃貸借では考えられない問題が日常的に発生します。
こうした課題に対処するには、契約書という法的基盤に加えて、実践的な運営体制の構築と、オーナーとの良好な関係維持が不可欠です。
ここでは、民泊運営でトラブルを最小化し、事業を行うための方法を見ていきましょう。
必ず契約書を交わす
民泊運営において契約書を交わさない、あるいは口約束だけで始めることは、事業を破綻に導く最も確実な方法です。「口頭で了承を得ているから問題ない」という安易な判断が、後に深刻なトラブルを引き起こしています。
オーナーが代替わりした際、相続人が「民泊の承諾など聞いていない」と主張し、突然の契約解除を迫られるケースは決して珍しくありません。
そのため、契約書には必ず日付を明記し、双方が署名・捺印した原本を各自保管しましょう。さらに契約内容に変更が生じた場合には必ず覚書や変更契約書を作成し、書面で記録を残しましょう。どんなに小さな変更でも、必ず書面化する習慣を徹底することが、長期的な信頼関係の基盤となります。
契約書の保管方法も重要です。原本は金庫など安全な場所に保管し、コピーやスキャンデータも複数箇所に分散して保存します。契約書が紛失したり破損したりすると、トラブル発生時に権利を主張できなくなるリスクがあるため、データのバックアップは必須です。
民泊運用代行を活用する
民泊運営の最大の課題は、24時間365日の管理体制を維持することです。深夜の騒音トラブル、緊急時の設備故障、宿泊者からの問い合わせなど、運営者個人がすべてに対応するのは現実的に不可能です。
ここで重要な役割を果たすのが民泊運用代行サービスです。専門業者に運用を委託することで、トラブル対応の質が向上できます。さらに、個人で運用するよりも専門業者に運用を委託しているということで物件のオーナーに安心を与えることができます。
料金体系のは売上の20〜30%を手数料として徴収する業者が一般的ですが、料金以上の価値があります。
民泊運用代行の主なサービス内容
大家と良好なコミュニケーションをとる
民泊運営の長期的成功において、オーナーとの良好な関係維持は契約書と同等かそれ以上に重要です。契約書は最低限のルールを定めるものですが、日々の運営では契約書に書かれていない様々な判断や調整が必要になります。
こうした局面でオーナーとの信頼関係があれば、柔軟な対応や協力を得られますが、関係が悪化していると些細な問題でも対立が深まります。
そのためには、定期的にコミュニケーションをとったり、何かトラブルがあった場合には速急にトラブル解決に向かうなど行う必要があります。また、レベニューシェア方式でステイクホルダーとして共にすすめていくということも良好なコミュニケーションをとることにつながるかもしれません。
まとめ
民泊運営における賃貸借契約書は、単なる形式的な書類ではなく、事業の成否を左右する最重要の法的基盤です。通常の賃貸契約では民泊が禁止されているため、民泊特約を契約書に明記し、オーナーの承諾を書面で得ることが絶対条件となります。
その契約書には、物件の使用目的、運営条件と制限事項、届出および許可の義務、保険加入、近隣対応手順、営業報告義務など、民泊特有の詳細な条項を盛り込む必要があります。これらの項目を明確に定めることで、オーナーとの合意内容が客観的に証明され、トラブル発生時にも適切な対応が可能になります。
契約形態の選択も重要な判断です。普通賃貸借契約は運営者に長期的な安定性を提供しますが、オーナー側のリスクが高くなります。定期借家契約はオーナーに確実な契約終了の権利を与える一方、運営者の事業計画に制約をあります。事業用賃貸借契約は条件設定の自由度が高く、民泊利用許諾付き賃貸借契約は民泊に特化した包括的な取り決めが可能です。
それぞれの特性を理解し、自身の事業計画とオーナーの意向に合った形態を選択することが求められます。
