固定資産税を払い続けているから問題ない、と思っていたとしたら、その認識は一度見直す必要があります。

全国の空き家は576万から約850万戸へ増加(総務省 住宅・土地統計調査)。特定空き家として勧告を受ければ固定資産税は最大6倍になり、倒壊すれば所有者が無過失で賠償を負います。税金を納め続けても、建物が傷むのを止める効力はありません。

空き家を放置した場合に税金・賠償・費用がどう増えるかを数字で確認できます。放置を続けるか動くかを判断する材料として使ってみてください。

空き家を放置するとどうなるか

固定資産税を払っていても、空き家の管理責任が消えるわけではありません。税金さえ納めていれば自由、という思い込みがまず崩れます。放置を続けた先で待っているのは、税額の増加、倒壊や落下の賠償、近隣への実害、犯罪利用の4つ。これらが時間とともに同時に進みます。

固定資産税を払うことと管理することは別になる

税金を払い続けても、それは所有を継続しているというだけです。建物が傷んでいく事実は止まりません。

全国の空き家は20年で倍近くに増えました(総務省 住宅・土地統計調査)。その多くが、固定資産税を払い続けながら、建物は何年も手つかずのままになっています。だから、納税を理由にちゃんとしていると考えるのは危うい判断です。

放置で起きる4つの代償が同時に進む

放置を続けると、固定資産税の増額・倒壊や落下の賠償・近隣への実害・犯罪利用が同時に進みます。代償は一つにとどまりません。

たとえば管理不全と認定されれば税の軽減が外れ、屋根や外壁が落ちれば賠償の対象になります。雑草や害獣は隣家に及び、無人の建物は不法侵入や放火の標的です。これらは別々に起きるわけではなく、放置という一つの状態から同時に進みます。

固定資産税が最大6倍になる

2023年の法改正で、空家対策特別措置法に管理不全空き家という段階が加わりました。これまでは、傷んだ空き家がいきなり特定空き家に指定される流れでした。その手前に、もう一段早い網がかかったことになります。固定資産税を払い続けているだけでは、この網から外れられません。

特定空き家と管理不全空き家に認定される段階

特定空き家は、空家対策特別措置法が定める最も重い区分です。崩れる危険がある、衛生上有害である、景観を著しく損なう、周辺の生活環境を損なう。この4つの基準のいずれかに当てはまると、市区町村が認定します。

2023年の改正で新設されたのが、その一歩手前の管理不全空き家です。特定空き家ほど深刻ではないものの、放っておけばそうなる恐れがある建物が対象になります。庭木が伸び放題、窓ガラスが割れたまま、外壁が剥がれかけている。こうした状態が続くと、特定空き家を待たずに認定が進みます。

もっとも、固定資産税を納めているかどうかは認定の判断材料になりません。国土交通省は、どちらの段階でも所有者へ助言や指導を行えると定めています。納税の実績と、空き家の管理状態は別物だからです。

住宅用地特例が外れて税額が6倍に近づくまで

住宅が建つ土地には、住宅用地特例という軽減措置があります。200㎡以下の部分なら、固定資産税の評価額が6分の1まで下がる仕組みです。空き家であっても、家屋が残っている限りこの軽減は効いています。

ところが管理不全空き家や特定空き家として勧告を受けると、この特例が外れます。6分の1の軽減が消えるため、土地にかかる税額は理屈のうえで最大6倍。年5万円だった負担が、計算上は30万円規模になる土地もあります。

軽減が外れるのは勧告を受けた翌年度から。ある日、これまでの何倍もの納税通知が郵便受けに届きます。

そのため、家を解体して更地にすれば負担が減ると考える人もいるでしょう。ただ、更地は住宅用地ではなくなるため、こちらも同じく軽減は外れます。払い続けてさえいれば現状維持で逃げ切れる、という前提はここで崩れます。

倒壊や落下で問われる損害賠償責任

屋根の瓦が道路に落ち、通行中の人に当たった。所有者は遠方に住んでいて、その朝のことを知らなかった。それでも民法717条の工作物責任は、所有者に無過失で賠償を求めます。

建物や塀、屋根といった土地の工作物に欠陥があり、それが他人に損害を与えれば、知らなかった・遠くにいたという言い分は通りません。放置の代償は、税の負担だけでは終わりません。

塀や屋根が他人を傷つけたとき所有者が負う工作物責任

工作物責任とは、建物や塀のように土地に固定された物が他人に損害を与えたとき、その占有者や所有者が負う賠償責任です。民法717条に根拠があり、空き家の劣化した屋根瓦が落ちて通行人に当たる、ぐらついた塀が崩れて隣家を壊すといった場面が、そのまま条文の射程に入ります。

ところがこの責任の重さは、無過失責任という性質にあります。通常の損害賠償なら、被害者が加害者の落ち度を立証しなければなりません。工作物の所有者については、欠陥さえあれば落ち度を問われず賠償を負います。

そのため、きちんと手入れしていたつもりでも、結果として崩れて人を傷つければ責任から逃れられません。空き家を放置するほど傷みは進み、事故の確率は上がっていきます。

倒壊で隣家を壊し死者が出たときの賠償試算

老朽化した空き家が地震や台風で倒れ、隣の家を巻き込んで人命に及ぶ。この最悪の場面を金額に置き換えた試算があります。

たとえばNPO法人空家・空地管理センターの試算では、空き家が倒壊して隣家が全壊し、3人が死亡した場合の賠償額は約2億860万円にのぼります。死亡した人への慰謝料や逸失利益、全壊した建物の再建費用を積み上げた金額です。所有者個人の資産で支払いきれる規模ではありません。

倒壊は、所有者が遠方にいても突然やってきます。前夜まで普通に建っていた家が、翌朝の地震で崩れることもあります。崩れた瞬間、無過失責任の請求書が所有者に向かいます。

こうした倒壊は手入れを怠った末に起きるもので、放置の年数が長いほど現実味を帯びます。離れて暮らす所有者ほど、距離は守りになりません。

子どもが空き家で事故にあったときの賠償試算

賠償の対象は、通行人や隣人だけではありません。空き家に入り込んだ子どもが巻き込まれる事故もあります。

NPO法人空家・空地管理センターは、11歳の男児が空き家に関わる事故で死亡したケースの賠償試算も出しています。その額は約5,630万円にのぼります。子どもが空き家に近づいて命を落とすという場面を想定した金額です。

子どもにとって、割れた窓や崩れかけた建物は格好の遊び場に映ります。

そのため人が住まなくなった建物は、管理者が思う以上に人を引き寄せます。施錠や立入防止を怠ったまま放置すれば、その賠償も所有者に向かってきます。

放置中でも管理を委ねても責任が残る理由

遠方に住んでいて見に行けないあいだも、空き家の劣化は止まりません。では、誰かに管理を任せれば所有者の責任は消えるのでしょうか。

消えません。民法717条は、管理を委ねた相手に資力がなければ最後は所有者が賠償を負うと定めています。物理的に離れていても、管理を外注していても、所有しているという一点で責任は残り続けます。先に見た2億860万円という試算は、所有者個人の資産で到達できる金額ではありません。

近隣住民への実害

隣の空き家からツタが自宅のフェンスに伸び、野良猫が住みつく。被害は塀を越えて広がります。割れた窓から虫が出入りし、敷地の境界線は意味をなさなくなります。放置された一棟は、隣の家の暮らしを直接削っていきます。

雑草とツタが隣地へ伸び害獣が住みつく

伸び放題の雑草とツタは、敷地の中だけにとどまりません。隣の空き家から伸びたツタが自宅のフェンスに侵食し、引き剝がしても翌年また同じ場所まで戻ってきます。窓が割れたまま放置された家屋は、野良猫が住みつき、その先に害獣やゴキブリが流れ込む経路になります。たとえば隣の空き家からゴキブリが大量に入り込み、自分の家まで駆除に追われたという事態も起きています。

被害を受けた側は手を出せません。植物も害獣も、出どころは他人の土地です。勝手に切れば越境のトラブルになりかねません。所有者に連絡しても動いてもらえなければ、隣家は被害を受け続けます。

ゴミの不法投棄と悪臭が呼び込まれる

人目のない空き家の敷地は、ゴミの捨て場として狙われます。家庭ゴミから粗大ゴミまで持ち込まれ、放置されたゴミから悪臭や害虫が発生する。たとえば夏場は腐敗臭が隣家まで届き、窓を開けられなくなります。

捨てられたゴミの撤去責任は、土地の所有者に及びます。投棄した人間が分からなければ、片付けの費用も手間も所有者の側に残ったままです。一度溜まり場になった敷地は、新しいゴミをさらに呼び込みます。

苦情が行政に届いても解決は所有者頼みになる

屋根の中央がたわんだ空き家について、隣人が役所に相談する。よくある流れです。ところが行政は所有者への助言や指導にとどまります。

ただし特定空き家に認定された末、所有者が動かなければ行政代執行として自治体が解体に踏み切る手続きが別途存在します。空き家は個人の財産であり、通常は勝手に立ち入って手を加える権限が役所にはないからです。

その所有者に連絡がついても、お金がないと言われればそこで止まります。最後は隣人が民事で動くしかなくなり、解決の主導権は結局その家の所有者が握ったままです。役所に苦情を入れれば片付くという期待は、空き家の前で通じません。

犯罪に利用されるリスク

人の出入りがない建物は、放火の標的になりやすい状態です。誰も住んでいない家は、夜になっても明かりがつきません。

人目も少ない。火をつけても見とがめられにくい場所として狙われます。空き家の出火は、毎年の火災原因の上位に並びます。

放火や失火で全国の出火原因の上位に入る

放火は、全国の出火原因のなかで長く上位を占めてきました。空き家はその標的になりやすい建物です。雑草が伸び、郵便物が溜まり、窓に明かりがつかない家は、人の目が届いていないと外から一目でわかります。

しかも火がつけば、被害は1軒では終わりません。乾いた木材や放置された家具は、よく燃えます。隣家へ燃え移れば、火元の責任を問われます。

失火でも同じです。配線の劣化や残されたガス機器から出火する例もあります。住んでいないからこそ、火が出ても誰も気づきません。

不法侵入でたまり場や犯罪の拠点になる

施錠の甘い空き家は、外から見れば入りやすい家です。割れた窓や壊れた鍵がそのままなら、誰でも入り込めます。

一度入られると、たまり場になります。ところが所有者は遠方にいて、深夜に人が出入りしても気づきません。不正な活動の場として使われ、ゴミや吸い殻が散らかっていきます。何が起きているのか、本人だけが知らないまま時間が過ぎる状態です。

発見が遅れて被害が大きくなる

住人がいない建物では、放火も侵入も気づかれるまで時間がかかります。

火が出ても隣家や通行人が見つけるまで誰も通報しません。侵入者が住み着いても、近隣が異変に気づくまで放置されます。発見が遅れた分、被害は大きく膨らみます。

放置するほど費用が膨らむ

月に数千円の管理費を惜しんで放置を選んだはずが、数年後には数百万円の解体費に化けます。固定資産税さえ払っていれば現状維持ができるという感覚と、実際に動く金額の差は大きく開いていきます。

解体費と廃材処分費は放置した年数だけ高くなる

解体費は、建物を壊す手間だけでなく、出てきた廃材を処分する費用で決まります。木材も瓦も土壁も、運び出して処分場へ持ち込むたびに料金がかかり、放置した年数が長いほどこの上乗せが効いてきます。雨漏りで腐った柱や、湿気で崩れた壁材は、健全なうちに壊すより処分量が増えるためです。放置3年で約20万円、5年で約40万円規模の廃材処分費が上乗せになった事例もあります。

ところが厄介なのは、見積もりを取った後で発覚するアスベストです。数年放置した古い家では、解体に入る段階でアスベスト調査が後から必要になり、相場より数十万円高い見積もりに跳ね上がります。壊すと決めてから費用が膨らむため、放置している間は総額が読めません。

行政代執行になると費用は全額所有者へ請求される

自分で解体すれば100〜200万円で済んだはずの家が、行政代執行による解体では420万円を請求された事例があります。自力で動いた場合の2〜4倍にあたります。固定資産税を払っているだけでは、この請求から逃れられません。

行政代執行は、危険な空き家を所有者が放置し続けた末に、自治体が代わりに解体する手続きを指します。所有者の所在がつかめない場合は略式代執行という形がとられ、いずれも解体にかかった費用は全額が所有者の負担です。月数千円の管理費を払えずに放置した結果、自治体が建物を取り壊し、その費用が通知という形で所有者のもとに届きます。

そのため代執行費は税金と同じ扱いになり、払わなければ財産の差し押さえに進みます。放置をやめる判断を先送りするほど、最後に届く金額は重くなるでしょう。

放置をやめるために今できること

親から相続した実家の名義を変えないまま、固定資産税の通知だけが毎年届いている状態は珍しくありません。ところが、名義を自分に移さないと、売却も解体もその先へ進められません。登記が動かない限り、空き家は所有者の手の中で止まったままです。

相続登記を3年以内に済ませて過料を避ける

放置をやめる最初の一歩は、相続した不動産の名義を自分に移す相続登記です。これまでは登記をしない自由がありましたが、2024年4月から相続登記は義務化されました。相続を知った日から3年以内に登記しないと、10万円以下の過料の対象になります。

固定資産税を払い続けていても、登記が亡くなった親の名義のままなら、その不動産はまだ自分のものとして動かせません。ただし、登記を済ませて初めて売却の契約も解体の発注も自分の判断で進められます。過料を避けつつ放置をやめる第一歩が、この名義の付け替え。

売却か解体かを早めに選んで費用の膨張を止める

名義を移したあとは、その空き家を手放すか、建物を取り壊すかで動き方が分かれます。まだ人が住める状態で買い手がつくなら売却、傾きや雨漏りで危険なら解体と、判断は建物の状態しだいで一律ではありません。

解体の場合、自力で発注すれば数百万円規模の費用がかかる一方、行政の代執行に回れば自己負担はさらに重くなります。たとえば自治体によっては老朽空き家の解体補助金を用意しており、申請窓口で対象や上限額を確認できます。先送りしても建物の傷みは止まらず、解体費も処分費も上がる一方です。判断を早めることが、費用が膨らむ前に止める一番の方法でしょう。

残して使う道は活用専門の情報で確かめる

売却も解体もせず、貸したり民泊にしたりして実家を残す道もあります。ただし、活用には立地や建物の状態、運営の手間といった別の検討材料がついて回ります。残して使う判断は、活用方法を専門に扱う情報で確かめてください。

たとえば民泊として使う場合に必要な法的条件や届出の流れは、下記の記事で確認してください。

空き家を民泊にできる?メリットやデメリット、始め方など解説!

まとめ

税の増加・賠償リスク・解体費の膨張は、それぞれ別の問題に見えます。しかしその根にあるのは、放置しているという一点に尽きます。どれか一つが現実になれば、他も連鎖していきます。

放置を続けても、空き家は誰かが勝手に片付けてはくれません。固定資産税の特例が外れれば税額は数倍に跳ね上がります。倒壊事故が起きれば賠償も、放置の末に行政が壊せば解体費も、最後はすべて所有者に請求が戻ります。

先送りした分だけ、費用も選択肢も重くなります。今の空き家の状態を確認し、売却・解体・活用のどれが自分の状況に合うかを早めに判断することが、費用と責任を増やさない唯一の手です。