民泊事業の開始を検討している中で、許可申請の手続きや費用負担に不安を感じていませんか。「とりあえず始めてみよう」という考えは、実は大きなリスクを伴います。

この記事では、無許可での民泊営業がどのような危険性をはらんでいるのか、実際の摘発事例や罰則内容を踏まえて詳しく解説します。

無許可で民泊を始めるリスクとは?

民泊事業は適切な許可や届出が必要な事業であり、これらの手続きを行わない営業は重大な法的責任が生じます。無許可民泊のリスクと処罰内容について具体的な内容を説明していきます。

無許可営業は必ずバレる可能性が高い

行政機関や警察による定期的な現地調査により、無許可の民泊営業は発覚するリスクが非常に高くなっています。近隣住民からの通報により、無許可物件が特定される事例が多数報告されています。住人が不審に感じた際の警察への通報をきっかけに立ち入り調査が実施されるケースが増加しています。

また、インターネット上の宿泊施設情報の監視により、行政側は無許可物件を特定する体制を構築しています。民泊仲介サイトに掲載された物件情報から、無許可営業を発見するケースも発生しています。無許可営業は必ず発覚する前提で考える必要があります。

懲役か罰金が科される

住宅宿泊事業法では、無許可での民泊営業に対して厳しい罰則が設けられています。無許可営業が発覚した場合、懲役刑が科される可能性があり、法人の場合は会社に対しても処分が行われます。

刑事罰の対象となることから、無許可営業のリスクは非常に高いと言えます。

虚偽申請でも同様の罰則対象に

届出内容に虚偽があった場合も、無許可営業と同様の厳しい罰則が科されます。実際の運営者や物件情報を偽って申請した事例も、刑事罰の対象となります。

住宅宿泊事業法では、正確な情報提供による適正な事業運営が求められており、虚偽申請は重大な法令違反として扱われます。

業務停止命令違反で追加処分も

行政から業務停止命令を受けた後も営業を継続した場合、無許可営業とは別に追加の処分が科されます。業務停止命令に従わない場合、刑事罰の対象となり、悪質な事例として扱われます。

そのため、一度業務停止命令を受けた後は、必ず営業を中止する必要があります。

許可なしで営業すると何が危険なの?

無許可での民泊営業は、施設の安全性や宿泊者の保護において深刻な問題を引き起こす可能性があります。適切な許可を得ずに営業することで、事業者も宿泊者も大きなリスクにさらされることになります。

以下では、具体的にどのような危険性があるのか、詳しく解説していきます。

火災保険に加入できず補償なしに

無許可で民泊を営業する場合、火災保険への加入が事実上不可能な状態となります。一般の住宅用火災保険では、宿泊事業での使用は補償対象外となるため、火災が発生した際に保険金が支払われない事態となります。法人向けの宿泊施設保険にも加入できないため、火災による建物の損壊や宿泊者の人的被害に対する補償が一切受けられません。

さらに、火災発生時の責任は全て事業者が負うことになり、数千万円規模の損害賠償を求められる可能性もあります。特に木造建築物の場合、延焼により近隣住宅にまで被害が及ぶことで、賠償金額が著しく高額になるケースも報告されています。

事故発生時の損害賠償請求の危険性がある

無許可民泊では、宿泊者が施設内で負傷した場合や設備の不具合により損害が発生した際に、賠償責任保険による補償を受けることができません。施設内での転倒事故や食中毒の発生、設備の故障による宿泊者の所持品の破損など、様々なトラブルに対して事業者が全額を自己負担で賠償しなければなりません。

特に重大な事故が発生した場合、治療費や休業補償、慰謝料など、複数の項目で賠償を求められ、事業者の資産や収入を大きく上回る金額となることもあります。また、賠償責任を巡る法的争いに発展した場合、弁護士費用などの追加負担も発生します。

宿泊者の安全が確保できない状態に

許可を得ていない民泊施設では、消防法で定められた避難経路の確保や消火設備の設置が適切に行われていない可能性が高くなります。非常口の表示や避難経路図の掲示、火災報知器の設置など、宿泊者の安全を守るための基本的な対策が不十分な状態で営業することになります。

また、定期的な設備点検や衛生管理も行き届かず、火災や事故のリスクが著しく高まります。施設の構造や設備が宿泊施設としての安全基準を満たしていないため、緊急時に適切な対応ができない状況に陥る可能性があります。

犯罪や違法行為の温床となるリスク

無許可民泊は、本人確認や宿泊者名簿の管理が不十分なため、犯罪者の潜伏先として悪用されるリスクがあります。警察への宿泊者名簿の提出義務もないため、違法薬物の売買や窃盗団の拠点として利用される事例も報告されています。

さらに、宿泊者による騒音や迷惑行為に対して、適切な管理や指導を行うことができません。近隣住民とのトラブルが発生した際にも、行政や警察との連携が取れず、問題の解決が困難になります。これらの事態は、地域の治安悪化にもつながる深刻な問題となっています。

無許可民泊の罰則はいくらになる?

住宅宿泊事業法では、無許可営業や法令違反に対して、行為の悪質性に応じた段階的な罰則が定められています。法人の場合は、両罰規定により会社に対しても処分が科されます。

それでは、具体的な罰則内容について詳しく説明していきます。

虚偽届出で100万円以下の罰金刑も

住宅宿泊事業の届出時に虚偽の情報を記載した場合、100万円以下の罰金刑が科されます。実際の事例では、物件の所在地や面積を偽って申請したケース、施設の構造や設備について事実と異なる内容を記載したケースなどで摘発されています。法人による虚偽届出の場合、会社に対して300万円以下の罰金刑が科されます。

また、虚偽届出は法人の代表者や従業員個人の刑事責任も問われ、6か月以下の懲役刑が科される場合もあります。悪質な事例では、罰金刑と懲役刑の両方が科されることもあります。

管理業者未委託で50万円以下の罰金

住宅宿泊事業者が不在となる物件で、住宅宿泊管理業者への委託を行わなかった場合、50万円以下の罰金が科されます。管理業者への委託は法律で義務付けられており、委託せずに営業を続けた場合は法令違反となります。法人の場合は、会社に対して100万円以下の罰金刑が科されます。

管理業者への委託契約が形式的なものである場合や、実態として管理業務が適切に行われていない場合も、同様の罰則対象となります。管理業者との契約を途中解除した後、新たな管理業者を選定せずに営業を継続したケースでも摘発事例があります。

住所変更届出違反は30万円以下の罰金

事業者の住所や連絡先が変更になった際に、必要な変更届出を提出しなかった場合、30万円以下の罰金が科されます。変更届出の提出は法律で定められた義務であり、届出を怠った場合は行政処分の対象となります。法人の場合、会社に対して50万円以下の罰金刑が科されます。

住所変更以外にも、施設の構造や設備に変更が生じた場合の届出義務違反、宿泊者名簿の備付け義務違反などが同様の罰則対象となります。これらの届出義務違反は、適切な事業管理を妨げる行為として、厳格に取り締まられています。

立入調査拒否で50万円以下の罰金刑

行政機関による立入調査を正当な理由なく拒否した場合、50万円以下の罰金刑が科されます。立入調査は施設の安全性や法令遵守状況を確認するために実施され、調査への協力は事業者の義務となっています。法人の場合、会社に対して100万円以下の罰金刑が科されます。

立入調査の拒否は、施設の違法性を隠蔽する行為として扱われ、悪質性の高い違反として取り締まられます。調査官の質問に対する虚偽答弁や、必要な書類の提出拒否も同様の罰則対象となります。

罰金と懲役が併科される可能性も

特に悪質な違反行為の場合、罰金刑と懲役刑が併せて科されることがあります。過去の摘発事例では、虚偽届出を行いながら無許可営業を続けた事業者に対して、罰金刑と懲役刑が同時に科されています。複数の違反行為が重なる場合、それぞれの罰則が合算して科されることもあります。

また、業務停止命令に違反して営業を継続した場合は、1年以下の懲役または300万円以下の罰金という加重処罰の対象となります。悪質な違反行為の累積は、事業者に対する処分をより重くする要因となります。

無許可民泊で逮捕される可能性はある?

逮捕

無許可での民泊営業により逮捕や書類送検に至るケースは、全国で報告されています。実在する摘発事例をもとに、無許可民泊の法的リスクについて説明していきます。

京都で1億5千万円の売上で書類送検された事例

2019年3月、京都市内で無許可民泊を運営していた旅行会社常勤顧問の男性、旅館業取締役の男性、不動産管理会社の男性社員が書類送検されました。この事例では、マンションの一室を違法に民泊として貸し出し、約2年間で1億5千万円以上の売上を上げていました。

警察は、京都市の許可なくマンションの空室36室で団体旅行の中国人観光客ら353人を有料で繰り返し宿泊させた疑いと管理していたマンションの1室を有料で宿泊客6人に提供した疑いがあり書類送検しました。

参考:東スポWeb 無許可民泊送検で分かった“マンション闇ホテル化”の悪質度

大阪で元市役所職員が書類送検された実例

2017年9月、大阪市内のマンションで無許可民泊を運営していた元大阪市職員が書類送検されました。この事例では、大阪市の許可を得ずに、東成区のマンションなど9室に外国人観光客約25人を宿泊させ、代金約30万円を受け取った疑いがありました。

 「許可を後でとるつもりだった」と話しているようですが、大阪市が営業をやめるよう5回も指導したにもかかわらず、同社が従わなかったため、今年5月に吉村洋文市長が刑事告発をしていました。

参考:毎日新聞 元非常勤職員2人が無許可で民泊…営業中止を指導

上場企業の子会社も書類送検の事態に

JASDAQ(現東証スタンダード)に上場するピクセルカンパニーズと子会社ハイブリッドファシリティーズ2社と、役員ら6名が書類送検されました。この事例では、摘発された物件は台東区竜泉2丁目の賃貸マンションであるが、台東区は国家戦略特区に認定されておらず民泊の運営は禁止でされていました。

警視庁はハイブリッドファシリティーズを「旅館業法に定める経営の許可を受けることなく民泊を営んでいた会社」とし、企業と顧客両方を書類送検としました。

民泊を始める前に必要な手続きは?

民泊事業を適法に開始するためには、複数の重要な手続きを順序立てて実施する必要があります。それぞれの手続きを確実に行うことで、安全で適切な民泊運営が可能となります。具体的な手続きの内容について説明していきます。

物件の選定と確認

民泊として利用可能な物件であるか、法的な要件を確認することが最初のステップです。住居専用地域では年間営業日数の制限があり、180日以内での営業となります。

マンションの場合は管理規約で民泊が禁止されていないか確認が必要です。また、消防法に基づく避難経路の確保や、建築基準法による構造上の要件も満たす必要があります。

事前相談

保健所や消防署への事前相談を行い、必要な設備や基準について具体的な指導を受けます。特に、消防設備の設置基準や衛生管理の要件について、詳細な説明を受けることができます。

この段階で、行政側から改善が必要な箇所を指摘してもらうことで、スムーズな許可取得が可能となります。

必要書類の準備

住宅宿泊事業法に基づく届出には、以下の書類が必要となります。

  • 事業者の本人確認書類
  • 物件の登記事項証明書
  • 建物の平面図と配置図
  • 設備の設置状況を示す写真
  • 近隣住民への説明実施報告書

これらの書類は原本の提出が求められ、不備があると受理されないため、慎重な準備が必要です。

リノベーション

消防法や建築基準法の要件を満たすため、必要に応じて施設の改修工事を実施します。避難経路の確保や非常口の設置、消火設備の配置など、安全性に関わる工事は特に重要です。

また、宿泊者の快適性を考慮したバリアフリー化や設備の更新も必要に応じて行います。

開業届の提出

住宅宿泊事業法に基づく届出を都道府県知事または政令市の長に提出します。届出は民泊制度運営システムを通じて電子申請が可能です。

申請から受理までに通常2週間程度の期間を要し、この間に現地調査が実施される場合もあります。

必要設備の準備

法令で定められた必須設備を整備します。

  • 消火器の設置
  • 火災報知器の設置
  • 避難経路図の掲示
  • 非常口誘導灯の設置
  • 宿泊者名簿の管理システム

これらの設備は定期的な点検と維持管理が必要となります。

民泊サイトへの登録

届出が受理された後、Airbnbやbooking.comなどのサイトに登録を行います。登録の際は届出番号の入力が必須となり、この番号がないと掲載できません。

サイトごとに必要な写真や説明文を用意し、料金設定や予約受付のルールを決定します。また、施設の特徴や利用規約、緊急時の連絡先などの情報も正確に記載する必要があります。

民泊の管理業者への委託は必須?

住宅宿泊事業法では、民泊施設の管理体制について明確な規定が設けられています。管理業者への委託が必要となるケースと、その具体的な業務内容について説明していきます。
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家主不在型の場合の委託義務とは

住宅宿泊事業法では、事業者が施設に不在となる「家主不在型」の民泊において、国土交通大臣の登録を受けた住宅宿泊管理業者への管理委託が義務付けられています。事業者が施設から離れた場所に居住している場合や、日中に常駐できない場合は、管理業者への委託が必要となります。

国土交通省の統計によると、全国の民泊施設のうち約70%が家主不在型として運営されており、これらの施設では管理業者との契約が必須となっています。

管理業者に委託する業務の範囲

住宅宿泊管理業者には、法律で定められた以下の業務を委託する必要があります。鍵の受け渡しや清掃といった実務的な業務から、緊急時の対応まで、幅広い責任を担います。

具体的な委託業務には、宿泊者への施設案内や使用方法の説明、衛生管理や施設の維持管理、騒音やごみ出しなどの苦情対応が含まれます。特に重要なのは、火災などの緊急時における24時間体制での対応です。宿泊者の安全確保と近隣住民とのトラブル防止のため、迅速な対応が求められます。

また、宿泊者名簿の管理や行政への定期報告など、法令遵守に関する業務も管理業者の重要な役割となります。これらの業務は適切な記録と保管が必要で、行政の立入調査時にも確認の対象となります。

管理業者委託の相場

住宅宿泊管理業者への委託費用は、物件の規模や所在地、委託業務の範囲によって大きく異なります。一般的な相場として、売上の20%から30%程度が管理手数料として設定されています。都心部の物件では、立地や施設の特性により、さらに高額な手数料設定となる場合もあります。

管理業者の選定には、単に費用面だけでなく、以下の点を重視する必要があります。

  • 24時間対応体制の実績
  • 地域での管理実績
  • 複数言語での対応能力
  • 緊急時の対応体制
  • 行政対応の経験

特に重要なのは、管理業者の法令遵守体制と危機管理能力です。宿泊者の安全確保と適切な施設運営のため、信頼できる管理業者との契約が不可欠となります。また、定期的な報告や連絡体制の構築など、継続的な関係性を築くことができる業者を選定することが推奨されます。

まとめ

無許可での民泊営業は、発覚時の刑事罰や行政処分のリスクだけでなく、火災や事故が発生した際の補償問題、宿泊者の安全確保、近隣トラブルなど、深刻な問題を引き起こす可能性があります。

適切な許可を得るためには、物件選定から行政への届出、必要設備の整備、管理業者との契約など、いくつかのステップを確実に実施する必要があります。手続きは決して簡単ではありませんが、これらを適切に行うことで、安全で持続可能な民泊事業の運営が可能となります。

事業の成功と地域との共生のために、必要な手続きを確実に実施していきましょう。