民泊の管理業務を委託したい、または住宅宿泊管理業を開業したいと考えていませんか?
住宅宿泊事業法(民泊新法)では、家主不在型の民泊運営において住宅宿泊管理業者への委託が義務付けられています。管理業者として登録するには、国土交通大臣への登録申請と9万円の手数料が必要です。
本記事では、住宅宿泊管理業者の定義から法定業務、登録要件、なるメリット・デメリット、具体的な登録手続きまでを網羅的に解説します。
住宅宿泊管理業者とは何か?

住宅宿泊管理業者は、住宅宿泊事業法第2条第5項に基づき定義されています。ここでは、住宅宿泊管理業者の法的位置づけと役割について見ていきましょう。
住宅宿泊管理業者とは、2018年6月15日に施行された住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づき、国土交通大臣の登録を受けた事業者です。住宅宿泊事業者に代わって物件の管理業務を行う専門事業者として、法律上明確に位置付けられています。
家主不在型の民泊(住宅宿泊事業法第11条)では、住宅宿泊管理業者への委託が義務となっています。これは宿泊者の安全確保と近隣住民への配慮を目的とした法的要件です。家主居住型の民泊であっても、業務の一部または全部を委託することが可能です。
住宅宿泊管理業者が行う6つの業務

住宅宿泊事業法第11条および同法施行規則では、住宅宿泊管理業者が行うべき業務が具体的に定められています。
ここでは、法定業務として定められた6つの主要な業務内容について詳しく見ていきましょう。
宿泊者対応と施設管理
住宅宿泊事業法施行規則第6条では、宿泊者への対応および施設管理が義務付けられています。
チェックイン時には、鍵の受け渡しと施設利用方法の説明を行います。スマートロックの導入により非対面チェックインを実現している業者も増加中です。宿泊中は24時間体制で問い合わせに対応し、設備トラブルや周辺情報の提供を行います。
施設管理では、建物・設備の定期点検と修繕手配を実施。設備の不具合が発生した際は、速やかに専門業者を手配して復旧対応を行うことで、宿泊者の満足度維持に努めます。
衛生管理と安全確保
住宅宿泊事業法施行規則第8条では、衛生確保措置が義務として定められています。
清掃業務はチェックアウト後に実施し、客室清掃・リネン交換・消耗品補充を行います。清掃マニュアルに基づいた作業により、一定の衛生水準を維持。感染症対策として、アルコール消毒や換気も徹底しています。
安全面では、消防法に基づく設備の定期点検が必要です。火災報知器・消火器の点検、ガス漏れ・水漏れのチェック、電気設備の安全確認を実施します。適切な室温・湿度管理や、季節に応じた設備メンテナンスも重要な業務となります。
宿泊者名簿の作成と管理
住宅宿泊事業法第8条により、宿泊者名簿の作成・備付けが義務付けられています。
記載事項は以下の通りです:宿泊者の氏名・住所・職業・国籍(外国人の場合は旅券番号)・連絡先・宿泊日。これらは防犯・緊急連絡・税務記録として重要な情報です。
保存期間は宿泊日から3年間と法定されています。適切な保管方法および廃棄方法の確立が必要です。行政機関から提示を求められた場合は、速やかに対応する義務があります。
近隣トラブル防止と対応
住宅宿泊事業法施行規則第10条では、周辺地域の生活環境への悪影響防止措置が定められています。
宿泊者への事前説明が基本です。ゴミ出しルール・騒音禁止時間・喫煙場所など、日本の生活習慣を多言語で案内します。チェックイン時の口頭説明と、施設内の案内表示により、ルール遵守を徹底します。
近隣住民との関係構築も重要な業務です。民泊開始前の挨拶回り、定期的な情報共有により、理解と協力を得ます。苦情が発生した場合は、内容を正確に把握し、速やかに対策を実施。近隣住民への誠意ある説明と、必要に応じた宿泊者への注意または退去要請を行います。
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緊急時の対応
24時間体制での緊急対応体制の構築が求められます。
宿泊者の急病・怪我の際は、医療機関への連絡および搬送手配を実施します。外国人宿泊者には通訳サービスの手配も必要です。火災・地震などの災害時には、避難経路の案内、避難場所の情報提供、避難誘導を行います。
設備トラブル(水漏れ・ガス漏れ・停電等)発生時は、速やかに修理業者や関係機関に連絡し、宿泊者の安全と快適性を確保します。緊急時対応マニュアルの作成とスタッフ教育も重要な準備事項です。
行政手続き
住宅宿泊事業法第14条により、2か月ごとの定期報告が義務付けられています。
民泊開始時は、住宅宿泊事業届出書の作成・提出をサポートします。届出書には物件情報・設備状況・安全対策などの詳細記載が必要です。消防法・建築基準法など関連法規への対応として、消防設備の点検記録や建物安全性に関する書類の作成・保管を行います。
定期報告では、宿泊日数・宿泊者数を2か月ごとに報告。報告を怠ると罰則の対象となるため、期限内の正確な報告が重要です。法令改正への対応として、最新情報の把握とオーナーへの情報提供も実施します。
住宅宿泊管理業者になるメリットは?

民泊市場の拡大に伴い、住宅宿泊管理業者の需要が高まっています。
ここでは、住宅宿泊管理業者として事業を行う主なメリットについて見ていきましょう。主なメリットは以下の3つです:
- 安定した収入源の確保
- 民泊市場の成長による事業機会の拡大
- 多様なスキルの活用と専門性の向上
安定した収入源を得ることができる
管理手数料は、一般的に売上の15%から30%程度が相場です。物件規模やサービス内容により変動します。
複数の物件管理により、収入の安定性とスケールメリットを実現可能です。清掃・リネン・設備メンテナンスなどのオプションサービス提供により、追加収入も得られます。
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民泊市場の需要増加に対応できる
訪日外国人の増加により、民泊需要は拡大傾向にあります。家主不在型民泊では管理業者への委託が法的義務のため、安定した需要が見込めます。
物件数の増加に伴い管理ニーズも増加し、事業機会が拡大します。専門知識と効率的な運営ノウハウを持つ業者への需要は、今後も高まる見通しです。
多様なスキルを活用できる
住宅宿泊管理業は、複数分野のスキルを総合的に活用できる職種です。
ホスピタリティ分野では、宿泊者への サービス設計・接客・多言語対応などが求められます。不動産管理では、建物・設備の維持管理、資産価値の保全に関する知識が活かせます。マーケティング面では、物件撮影・紹介文作成・価格設定・OTA掲載戦略などの知識が必要です。
これらのスキルを組み合わせることで、事業の付加価値を高め、競争力を強化できます。
住宅宿泊管理業者になるデメリットは?

事業開始前に把握すべき課題やリスクも存在します。
ここでは、住宅宿泊管理業者になる際の主なデメリットについて見ていきましょう。主なデメリットは以下の3つです:
- 初期費用・運営コストの負担
- 法令・規制遵守の義務
- ゲスト対応・トラブル処理の手間
初期費用や運営コストがかかる
登録申請料として9万円が必要です(住宅宿泊事業法施行規則第24条)。
財産的基礎要件として、負債総額が資産総額を超えないこと、支払不能状態でないことが求められます(同法第22条第1項第2号)。事務所の整備、セキュリティ対策も必要なコストです。
人件費も重要な支出項目です。24時間対応体制の構築には、複数スタッフの雇用または外部委託が必要となります。清掃・メンテナンススタッフの確保も継続的なコストが発生します。
営業・広告宣伝費として、ウェブサイト制作・広告・セミナー開催などに数十万円から数百万円規模の投資が必要なケースもあります。
法令や規制の遵守が求められる
住宅宿泊事業法(2018年6月15日施行)および関連法規の遵守が義務です。
管理業務の範囲・宿泊者名簿の管理方法・安全管理基準など、詳細な規定があります。地方自治体ごとの条例も把握が必要です。例えば、東京都千代田区では住居専用地域での民泊営業が原則禁止されています。
消防法・建築基準法など関連法規の理解も必須です。消防設備の設置基準や避難経路の確保は、安全管理上重要な事項です。法令違反は管理業者の責任を問われる可能性があります。
ゲスト対応やトラブル処理の手間が発生する
24時間体制でのゲスト対応が求められます。深夜・早朝の問い合わせ、緊急時対応など、時間的制約が大きい業務です。
近隣トラブル・設備故障・クレーム対応など、予期せぬ事態への迅速な対応が必要となります。言語の壁による外国人ゲストとのコミュニケーション課題も存在します。
住宅宿泊管理業者になるためにはどうすればいい?

住宅宿泊事業法第22条に基づく登録手続きが必要です。
ここでは、住宅宿泊管理業者になるための具体的な手順について、順を追って解説していきましょう。主な手順は以下の4ステップです:
1. 基本要件の確認
2. 事業計画の策定
3. 必要な体制の整備
4. 登録申請の提出
基本要件を確認する
住宅宿泊事業法第22条第1項各号に定める欠格事由に該当していないことが必要です。
欠格事由は以下の通りです:成年被後見人・被保佐人、破産手続開始決定を受けて復権を得ていない者、住宅宿泊管理業の登録取消から5年を経過していない者、暴力団員または暴力団関係者。
財産的基礎要件(同法第22条第1項第2号):負債総額が資産総額を超えないこと、支払不能状態でないこと。
人的要件として、業務管理者の設置が義務付けられています(同法第26条)。各事業所に1名以上配置が必要です。業務管理者の要件は、賃貸住宅管理業等の実務経験2年以上、または宅地建物取引士・マンション管理士等の資格保有です。
事業計画を立てる
事業の方向性を明確化し、リスクに備えるための計画策定が必要です。
市場調査:対象地域の民泊市場の状況、競合動向、物件オーナーのニーズ、宿泊料金相場、季節変動、管理料金相場などを調査します。
ビジネスモデル設計:サービス範囲(基本管理のみか、清掃・メンテナンスを含むか)、料金体系(固定報酬型・成果報酬型・併用型)、ターゲット物件タイプ(マンション・一戸建て・別荘等)を決定します。
マーケティング戦略:オーナー獲得方法(紹介・不動産業者連携・ウェブマーケティング等)、差別化ポイント(24時間サポート・多言語対応・データ分析等)を明確化します。
人員計画:必要人材(予約管理・清掃・メンテナンス・カスタマーサポート等)、雇用形態(直接雇用・外部委託)、24時間対応体制の構築方法を検討します。
リスク管理:想定されるリスク(物件の急な取り下げ・予約キャンセル増加・法規制変更等)への対応策を事前に策定します。
必要な体制を整える
実務遂行のための体制整備が登録前に必要です。
オフィス環境:通信設備(電話・メール・チャットシステム)、書類・帳簿の保管スペース、個人情報保護のためのセキュリティ対策(施錠管理・書類保管・PCセキュリティ)を整備します。
24時間対応体制:宿泊者からの問い合わせ・緊急時対応を24時間365日実施する体制構築が必要です。シフト制またはオンコール体制を導入します。
安全管理体制:鍵の管理方法、定期安全点検の実施方法、緊急時対応マニュアル、災害時の対応手順を策定します。消火器・避難経路図・防災グッズなどの設備も準備します。
衛生管理体制:清掃マニュアルの作成、清掃スタッフの教育、清掃チェックリストの整備により、一定品質を維持します。清掃用具・消耗品の管理方法、リネンの洗濯・交換方法も明確化します。
登録申請を提出する
住宅宿泊事業法施行規則第23条以下に定める手続きに従い、登録申請を行います。
申請先:国土交通大臣(実際の窓口は各地方整備局等の建設産業課)。事業所を設置する地域を管轄する地方整備局で申請します。
必要書類:住宅宿泊管理業者登録申請書(国土交通省指定様式)、定款または寄附行為(法人)、登記事項証明書(法人)、住民票の写し(個人)、欠格事由非該当誓約書、財産的基礎証明書類(貸借対照表・財産目録等)、業務管理者要件証明書類(実務経験証明書・資格証写し等)、事務所の平面図、業務方法書。
業務方法書は特に重要です。宿泊者の衛生確保・安全確保・外国人とのコミュニケーション円滑化・周辺地域の生活環境保全・宿泊者名簿の備付けに関する業務方法を具体的かつ実行可能な形で記載します。
申請手数料:9万円(住宅宿泊事業法施行規則第24条)。
審査期間:通常2~3か月程度。書類不備や追加説明が必要な場合はさらに時間を要します。
登録完了後:登録番号が付与されます。この番号は契約書や広告で明示が必要です。登録の有効期間は5年間で、更新手続きが必要です(同法第28条)。登録証の事務所掲示、広告・ウェブサイトでの登録番号表示が義務付けられています。
関連:民泊の始め方とは?物件選定から運営開始までの流れを紹介!
参考:観光庁住宅宿泊管理業者の登録
まとめ
住宅宿泊管理業者は、住宅宿泊事業法に基づき国土交通大臣の登録を受けた専門事業者です。家主不在型民泊では管理業者への委託が法的義務となっており、宿泊者対応・施設管理・衛生管理・宿泊者名簿作成・近隣トラブル対応・行政手続きなど、6つの法定業務を担います。
管理業者になるメリットとして、売上の15%から30%程度の安定した収入、民泊市場拡大による事業機会の増加、多様なスキルの活用が挙げられます。一方、登録申請料9万円を含む初期費用、法令遵守の義務、24時間対応体制の構築などのデメリットも存在します。
登録には、欠格事由非該当・財産的基礎・業務管理者の設置などの要件を満たし、事業計画の策定、必要な体制の整備を経て、国土交通大臣への登録申請(審査期間2~3か月)が必要です。登録後は5年ごとの更新が求められます。
