民泊事業を始めたものの、180日ルールによる営業制限に悩む方や、これから民泊事業への参入を検討している方の中には、「なぜ180日に制限されるのか」「この制限を回避する方法はないのか」「違反するとどうなるのか」といった疑問を持っている方も多いでしょう。
住宅宿泊事業法(民泊新法)では、年間提供日数の上限が180日(泊)と定められています。この制限により、需要が高い時期に集中して営業する必要があり、年間を通した安定した収益確保が難しいケースもあります。
本記事では、180日ルールの制度内容と背景、制限される理由、違反時のリスク、そして合法的な回避方法まで、実践的な視点で詳しく解説します。
民泊180日ルールとは

ここでは、住宅宿泊事業法(通称:民泊新法)において定められた年間営業日数の上限規制について、その制度内容と背景から解説します。
制度誕生の背景
住宅宿泊事業法は、2018年6月15日に施行されました。法制化以前は、グレーゾーンとして扱われることの多かった民泊事業に明確な法的根拠を与えることで、安全性と地域住民の生活環境を確保しながら、新たな宿泊需要に対応する体制が整備されました。
法的な位置づけ
住宅宿泊事業法における民泊は、住宅の全部または一部を活用して宿泊サービスを提供する事業として定義されます。住宅宿泊事業者には、都道府県知事(または政令指定都市・中核市の市長)への届出が義務付けられており、施設の管理方法や宿泊者の安全確保に関する具体的な基準を満たす必要があります。
住宅宿泊事業法では、年間提供日数の上限を180日と定めることで、一般住宅と宿泊施設の中間的な位置づけを明確化しました。住宅宿泊事業者は、営業日数の正確な記録と報告が求められるほか、地域の生活環境への配慮や衛生管理、宿泊者の安全確保などの責務を負うことになります。
この制度により、事業者は法令に基づく適切な運営を行うことで、安定した事業展開が可能になりました。一方で、地域住民にとっても、民泊事業による生活環境への影響を一定の範囲内に抑制する効果が期待されます。
なぜ180日に制限されるの?

住宅宿泊事業法における180日という営業制限には、住環境の保護と宿泊産業の健全な発展という重要な目的が含まれています。主な制限理由は以下の通りです。
- 住宅地保護のため
- ホテル業界とのバランスをとるため
- 不正民泊を撲滅するため
それぞれの制限理由について詳しく見ていきましょう。
住宅地保護のため
180日ルールが設けられた理由の一つは、住宅地の保護です。民泊事業が住宅地で過度に展開されると、地域住民の生活環境に悪影響を与える可能性があります。具体的には、宿泊者の出入りが頻繁になると、騒音やゴミの問題、近隣住民とのトラブルなどが発生しやすくなります。
年間180日という制限により、民泊事業が住宅地で展開される期間を一定の範囲内に抑制し、地域住民の生活環境を保護することを目的としています。この制限により、住宅としての機能を維持しながら、新たな宿泊需要に対応するバランスを取ることが可能になります。
実際、住宅宿泊事業法第3条第1項では、「住宅宿泊事業者は、住宅宿泊事業の実施に当たっては、地域住民の生活環境に配慮しなければならない」と定められており、180日ルールはこの配慮義務を具体化したものといえます。
ホテル業界とのバランスをとるため
180日ルールは、宿泊産業全体のバランスを保つためにも重要な役割を果たしています。旅館業法に基づくホテルや旅館は、年間を通して営業が可能ですが、施設基準が厳しく、初期投資も大きくなります。
一方、民泊新法に基づく民泊は、比較的緩やかな施設基準で営業が可能ですが、年間180日という制限が設けられています。そのため、この制限により、旅館業法に基づく施設とは異なる市場ポジションを確立し、宿泊産業全体としての多様性と安定性を確保することが可能になります。
不正民泊を撲滅するため
法制化以前は、無許可で営業を行う違法民泊が社会問題となっていました。これらの施設では、防火設備の不備や衛生管理の不足など、宿泊者の安全を脅かす事例が多く確認されています。
180日ルールの導入により、営業日数の管理と報告が義務付けられたことで、行政による実態把握と指導が容易になりました。その結果、違法営業を行う事業者に対する取り締まりも強化され、安全性の確保されていない施設の淘汰が進んでいます。
さらに、営業日数の制限は、民泊事業への参入障壁として機能し、安易な事業開始を抑制する効果もあります。つまり、事業計画の段階で、180日という制限を考慮した収益性の検討が必要となり、結果として質の高いサービスを提供できる事業者の選別につながっています。
違反するとどうなる? 回避できる?

住宅宿泊事業法における180日ルールの違反は重大な法令違反として扱われます。主な内容は以下の通りです。
- 罰則の具体例
- 回避方法:特区民泊で民泊を始める
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
罰則の具体例
180日ルールに違反した場合、住宅宿泊事業法に基づく罰則が適用されます。住宅宿泊事業法第48条では、無届営業や届出内容の虚偽報告に対して、「6ヶ月以下の懲役若しくは100万円以下の罰金又はこれを併科」という厳しい罰則が定められています。
さらに、行政処分として業務停止命令や事業廃止命令が出される場合もあります。住宅宿泊事業法第24条では、都道府県知事は、住宅宿泊事業者が法令に違反した場合、業務の停止を命じることができると定められています。これにより、投資した施設や設備が使用できなくなるだけでなく、事業者としての信用も大きく損なわれます。特に、悪質な違反や行政指導を無視して営業を続けた場合には、より重い処分が科される可能性があります。
回避方法:特区民泊で民泊を始める
180日ルールを合法的に回避する方法として、特区民泊制度の活用があります。特区民泊は、国家戦略特区に指定された地域で、年間営業日数の制限なく民泊事業を展開できる制度です。
特区民泊の認定を受けた施設では、防火・防災設備の充実や24時間体制の管理体制の整備など、高いレベルの安全管理が求められます。これらの要件を満たすことで、安定した事業運営と高品質なサービス提供が可能になり、結果として収益性の向上にもつながります。
特区民泊制度の活用により、180日ルールによる営業制限を合法的に回避することが可能です。ただし、施設の改修費用や管理体制の整備など、相応の投資が必要になります。事業計画の段階で、これらのコストと期待される収益を十分に検討することが重要です。
どう宿泊日数をカウントする?

住宅宿泊事業法における宿泊日数のカウント方法は、正確な営業日数管理の基礎となります。主な内容は以下の通りです。
- 宿泊日数のカウント方法
- 届出・報告義務
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
宿泊日数のカウント方法
180日ルールにおける宿泊日数のカウント方法は、実際の宿泊日数に基づいて計算されます。住宅宿泊事業法施行規則第2条では、「提供日数とは、住宅宿泊事業者が住宅宿泊事業を行う住宅の全部又は一部を宿泊の用に供した日数をいう」と定められています。
たとえば、1泊2日の宿泊の場合、1日としてカウントされます。2泊3日の宿泊の場合、2日としてカウントされます。年間180日という上限は、1月1日から12月31日までの1年間で、実際に宿泊者が利用した日数の合計が180日を超えないようにする必要があります。
そのため、正確な日数管理のため、宿泊者名簿や予約管理システムを活用し、営業日数を記録しておくことが重要です。実際、住宅宿泊事業法第15条では、宿泊者名簿の備付けが義務付けられており、この名簿は営業日数の管理にも活用できます。
届出・報告義務
住宅宿泊事業法第4条では、都道府県知事(または政令指定都市・中核市の市長)への届出が義務付けられています。届出には、施設の所在地や間取り、設備の状況、管理体制などの情報を記載する必要があります。
また、営業日数の報告義務も定められています。住宅宿泊事業法第20条では、都道府県知事は、住宅宿泊事業者に対して、報告を求めることができると定められています。行政から求められた場合、正確な営業日数の報告を行う必要があります。虚偽の報告を行った場合、罰則の対象となるため、正確な記録と報告が重要です。
180日以外はどう運用する?

民泊営業が制限される期間の施設活用は、事業の収益性を大きく左右します。主な運用方法は以下の通りです。
- マンスリーマンションへの転換
- レンタルスペース運用
- シェアハウス併用
それぞれの運用方法について詳しく見ていきましょう。
マンスリーマンションへの転換
転勤者や長期出張者向けに、家具や家電を備えた状態で貸し出すことで、通常の賃貸物件との差別化が図れます。また、民泊施設として整備した設備やインターネット環境は、マンスリーマンションの付加価値としても機能します。
ただし、賃貸借契約の形態や期間設定には注意が必要です。具体的には、短期の賃貸借を繰り返すことで実質的な民泊営業と見なされるリスクを避けるため、最低利用期間を明確に設定し、適切な契約書の作成と管理が求められます。
レンタルスペース運用
施設をレンタルスペースとして活用することで、宿泊以外の用途での収益確保が可能になります。具体的には、撮影スタジオやミーティングスペース、イベント会場など、時間単位での貸し出しにより、多様な収益機会を創出できます。
民泊施設として整備した内装や設備は、フォトスタジオやワークスペースとしても魅力的な空間を提供できます。特に都心部では、少人数での打ち合わせや商品撮影などのニーズが高く、時間貸しの需要が見込めます。
さらに、レンタルスペースとしての運用は、宿泊施設としての制限を受けないため、柔軟な料金設定や運営時間の調整が可能です。ただし、用途に応じた適切な保険加入や利用規約の整備など、運営面での対応は必要になります。
シェアハウス併用
民泊施設の一部をシェアハウスとして運営することで、安定的な基本収入の確保と施設の有効活用を両立させることができます。共用スペースと個室を組み合わせた運営により、入居者からの家賃収入を基盤としながら、残りの部屋を民泊として活用することが可能です。
シェアハウスの入居者は、施設の管理面でも重要な役割を果たします。具体的には、日常的な清掃や設備の点検、郵便物の受け取りなど、施設維持に関する基本的な業務を入居者と協力して行うことで、管理コストの削減にもつながります。
ただし、シェアハウスと民泊の併用運営では、入居者のプライバシーと安全性の確保が重要です。そのため、民泊利用者との動線を分離するなど、設備面での工夫や運営ルールの整備が必要になります。また、入居者の選定においても、このような運営形態への理解と協力が得られる方を慎重に選ぶことが重要です。
収益を最大化するには?

民泊事業の収益向上には、戦略的な運営とマーケティングが不可欠です。主な手法は以下の通りです。
- ダイナミックプライシングの活用
- 複数の予約サイトでの掲載
- 独自のコンセプトを持った物件にする
- 予約サイトでのSEO対策やSNSマーケティング
それぞれの手法について詳しく見ていきましょう。
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ダイナミックプライシングの活用
180日という制限がある中で収益を最大化するには、需要が高い時期に適切な料金設定を行うことが重要です。ダイナミックプライシングとは、需要の変動に応じて料金を動的に変更する手法です。
具体的には、需要が高い時期(観光シーズン、イベント開催時など)には料金を高めに設定し、需要が低い時期には料金を下げることで、年間を通して効率的な収益確保が可能になります。予約サイトの機能を活用するか、独自の料金設定システムを構築することで、ダイナミックプライシングを実現できます。
複数の予約サイトでの掲載
予約獲得のチャネルを多様化することで、集客力の向上と収益の安定化を図ることができます。Airbnbや楽天トラベル、Bookingcomなど、複数の予約サイトに物件を掲載することで、より広い層の利用者にアプローチできます。
各予約サイトの特性や利用者層の違いを理解し、それぞれのプラットフォームに適した物件紹介や料金設定を行うことが重要です。同時に、予約の重複を防ぐため、カレンダー管理を徹底する必要があります。
独自のコンセプトを持った物件にする
180日という制限がある中で、高い収益性を実現するには、差別化が重要です。独自のコンセプトを持った物件にすることで、競合との差別化を図り、高い宿泊単価を設定できる可能性があります。
たとえば、テーマ性のある内装や設備、周辺地域の魅力を活かした体験型のサービス提供など、他にはない価値を提供することで、利用者の満足度向上とリピーターの獲得につながります。また、オリジナルの観光マップの提供など、付加価値の高いサービスを展開することで、リピーターの獲得にもつながります。
予約サイトでのSEO対策やSNSマーケティング
オンライン上での露出を高めるため、予約サイト内でのSEO対策やSNSを活用したマーケティングが効果的です。具体的には、物件タイトルや説明文にキーワードを適切に配置し、質の高い写真や動画を掲載することで、検索結果での表示順位向上を図ります。
また、InstagramやFacebookなどのSNSを活用し、施設の魅力や周辺情報を定期的に発信することで、認知度の向上とブランド構築につながります。ただし、投稿内容は事実に基づく情報提供を心がけ、誇大な表現は避ける必要があります。
まとめ
民泊の180日ルールは、住宅宿泊事業法(民泊新法)において定められた年間提供日数の上限規制です。この制限により、住宅地の保護や宿泊産業全体のバランス維持、不正民泊の撲滅などが図られています。
180日ルールに違反した場合、罰金刑や営業停止命令などの厳しい処分が科される可能性があります。違反を避けるためには、正確な営業日数の記録と報告が重要です。
180日ルールを合法的に回避する方法として、特区民泊制度の活用があります。特区民泊では年間営業日数の制限がないため、需要が見込める立地であれば、より高い収益性を実現できる可能性があります。
180日という制限がある中で収益を最大化するには、ダイナミックプライシングの活用や複数の予約サイトでの掲載、独自のコンセプトを持った物件への差別化などが効果的です。適切な事業計画と戦略的な運営により、180日ルールの制約を踏まえながらも、高い収益性を実現することができます。
