「民泊投資で思うような収益が上がらない」「物件の維持管理に限界を感じている」など、民泊事業の運営に悩む声が増えています。その結果、投げ売り物件が市場に増加する傾向にあります。しかし、この状況は一方で新たな投資機会を生み出しているとも言えます。
本記事では、民泊物件の投げ売りが増加している背景から、購入・売却時の具体的な判断基準、そしてエリアごとの市場特性まで解説します。
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民泊物件が投げ売りされている理由とは?

民泊市場は大きな転換期を迎えています。かつては「儲かる投資」として注目を集めた民泊物件ですが、ここにきて投げ売りに出される物件が増加しています。その背景には、複数の構造的な課題が存在します。物件オーナーの声をもとに、市場が直面している現状を詳しく見ていきましょう。
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新規参入の増加で供給過多に
民泊市場の急速な拡大に伴い、新規参入が相次いでいます。特に都市部では、1キロ圏内に10件以上の民泊施設が密集するエリアも珍しくありません。この供給過多の状況は、稼働率の低下を引き起こしています。
実際に都内で民泊を運営するAさんは「開業当初は月の稼働率が80%を超えていましたが、近隣に次々と新規物件がオープンし、今では50%を下回る月も珍しくありません」と語ります。新規参入の波は依然として続いており、競争は一層激化することが予想されます。
人件費高騰で運営維持が困難に
人手不足を背景とした人件費の上昇は、民泊事業者の大きな課題となっています。清掃スタッフの時給は、ここ2年で平均1,200円から1,500円超へと上昇。24時間対応が必要なフロント業務の人件費も高騰しています。
さらに、外国人観光客の増加に伴い、多言語対応可能なスタッフの確保も必須となっています。「人件費の上昇分を宿泊料金に転嫁できず、収益が圧迫されている」という声が、多くの事業者から聞かれます。
宿泊単価の下落が収益を圧迫
競争激化に伴い、宿泊単価の下落が加速しています。都心部の民泊物件では、1泊あたりの単価が2年前と比較して20〜30%下落したケースも報告されています。
あるオーナーは「価格競争に巻き込まれ、原価割れギリギリの料金設定を余儀なくされています。このままでは事業の継続が難しい」と危機感を募らせています。特に繁忙期以外の集客が困難となり、年間を通じた収益確保が課題となっています。
設備投資の負担が重荷に
民泊施設の品質維持には、定期的な設備投資が欠かせません。ベッドやリネン類の交換、家電製品の更新、内装のリフォームなど、投資項目は多岐にわたります。
「開業時に借り入れた設備投資資金の返済が、想定以上の重荷になっています」という声もあります。収益が低迷する中、必要な設備投資が実施できず、施設の魅力低下を招くという悪循環に陥るケースも見られます。
物件管理の品質維持が困難に
質の高いサービスを維持するには、きめ細かな物件管理が必要です。しかし、人手不足や運営コストの上昇により、十分な管理体制を維持できない事業者が増えています。
特に清掃品質の低下は、口コミ評価の悪化に直結します。「清掃スタッフの確保が困難で、チェックイン時間に間に合わないケースも発生している」という課題を抱える事業者は少なくありません。
近隣トラブルで事業継続を断念
民泊施設をめぐる近隣トラブルは、事業継続の大きな障壁となっています。深夜のノイズ問題や、ゴミ出しルール違反などが主な要因です。
マンションの一室で民泊を運営していたBさんは「管理組合から度重なるクレームを受け、最終的に事業の継続を断念せざるを得ませんでした」と振り返ります。このような近隣トラブルが、投げ売りの一因となっているケースも見受けられます。
民泊投げ売り物件、購入のチャンス?

不動産投資の世界では「チャンスは危機の中にある」と言われています。民泊物件の投げ売りが増加する今、購入の好機と見る投資家も増えています。しかし、見極めのポイントを押さえなければ、大きなリスクを抱え込む可能性もあります。実際の投資事例をもとに、慎重な判断が必要な要素を紐解いていきましょう。
購入するなら適正価格での購入を見極めるべき
市場価格を大きく下回る物件に出会った時、誰もが「掘り出し物」を見つけた気持ちになるものです。しかし、投げ売り物件には何らかの理由が隠されています。投資判断を誤らないためには、以下の観点から物件を評価することが重要です。
まず、その物件の収益性を丁寧に分析する必要があります。「月間の実質稼働率が30%を下回る物件は、たとえ購入価格が安くても収益化が難しい」と、民泊投資のコンサルタントは指摘します。特に、過去1年間の稼働実績と収支データを精査することで、投資判断の精度を高めることができます。
次に、物件の立地特性を見極めることも重要です。「最寄り駅から徒歩15分以上の物件は、たとえ価格が魅力的でも、集客に苦戦するケースが多い」という声が、経験豊富な運営者から聞かれます。観光スポットへのアクセスや、周辺の生活利便施設の充実度なども、慎重に確認すべきポイントです。
さらに、建物のメンテナンス状態にも注意が必要です。投げ売り物件の多くは、必要な修繕が先送りされているケースがあります。
しかし、実際に収益を上げている投資家は「物件の仕入れ価格以上に、運営体制の構築が重要」と語っています。清掃スタッフの確保や予約管理システムの導入など、運営に必要なコストを織り込んだ上で、投資判断を行うことが求められます。
「リスクの高い物件でも、適切な価格であれば十分な投資リターンを見込める」と考える投資家もいます。
投げ売り物件の中には、確かに魅力的な投資機会が潜んでいます。しかし、それを見つけ出すためには、豊富な知識と冷静な判断力が求められます。
投げ売りされる民泊物件、エリアごとの違いは?

民泊市場は、エリアによって大きく異なる特性を持っています。投げ売り物件の状況も、地域ごとに異なる背景や課題が存在します。各エリアの実態を詳しく分析することで、投資判断に役立つ洞察が得られるはずです。それぞれの地域が抱える固有の課題や、今後の展望について見ていきましょう。
東京都心エリア
東京都心部では、特に新規参入の急増による競争激化が顕著です。新宿、渋谷、池袋などの主要ターミナル駅周辺では、マンションの一室を活用した民泊物件が密集しています。ビジネス需要と観光需要の両方を見込める立地であることから、高額な投資で参入した事業者も多く見られます。
都心部の物件オーナーからは「不動産価格の高騰で投資額が膨らみ、当初の事業計画通りの収益を確保できない」という声が聞かれます。特に、築年数の古い物件では設備投資の負担が重くのしかかり、事業継続を断念するケースが増えています。
一方で、地下鉄やバス路線が充実していることから、必ずしも駅近物件でなくても一定の需要を見込めるという特徴もあります。「立地の良くない物件でも、適切な価格設定とサービス品質の維持で収益を確保できている」という成功事例も存在します。
沖縄エリア
沖縄では、観光需要の季節変動が投げ売りの大きな要因となっています。繁忙期には高い稼働率と単価を実現できる一方で、閑散期の集客に苦戦する事業者が多く見られます。特に、那覇市内から離れた立地の物件では、年間を通じた安定運営が課題となっています。
「開業時は観光客の増加を見込んで投資したものの、競合の増加で思うような収益が上げられない」という声は、決して珍しくありません。台風などの自然災害リスクも、事業継続の不安要素となっています。
ただし、沖縄の民泊需要は依然として底堅く、適切な運営体制を構築できれば収益化が可能とされています。特に、外国人観光客向けの施設運営のノウハウを持つ事業者による物件取得の動きも出てきています。
北海道エリア
北海道、特にニセコエリアでは、インバウンド需要の変動が市場に大きな影響を与えています。スキーシーズンには高単価での運営が可能な一方で、グリーンシーズンの需要確保が課題です。「投資判断時に想定していた外国人観光客の需要が読めない」という不安から、投げ売りを検討する事業者も出てきています。
札幌市内では、地下鉄沿線を中心に安定した需要が見込めるエリアが存在します。しかし、冬季の除雪費用や暖房費の負担が、収益を圧迫する要因となっています。「維持管理費用の上昇を、宿泊料金に転嫁できない」という課題を抱える事業者は少なくありません。
京都エリア
京都では、厳格な住宅宿泊事業法の運用と、地域住民との関係性が大きな課題となっています。特に、町家を活用した民泊では、古い建物の維持管理コストが想定を上回るケースが多く見られます。歴史的な街並みの保全と、観光客の受け入れの両立に苦慮する事業者も少なくありません。
「宿泊需要は確実にあるものの、規制や地域との調和を図りながらの運営は想像以上に難しい」という声が、現場から聞かれます。ただし、京都独自の魅力を活かした運営ができれば、高単価での事業展開も可能とされています。
地方都市
地方都市では、観光資源の有無によって、民泊市場の状況が大きく異なります。有名な観光地を抱える都市では一定の需要が見込める一方で、ビジネス需要中心の地方都市では稼働率の確保に苦戦するケースが多く見られます。
「開業時は地域活性化を期待されたものの、実際の需要は限定的」という声も聞かれます。特に、公共交通機関が充実していない地域では、集客に苦戦する事例が目立ちます。一方で、地域の特性を活かしたユニークな運営で成功を収めている事業者も存在します。
民泊投資で失敗?投げ売り以外の解決策とは?

民泊事業の収益性が低下する中、投げ売り以外にも複数の選択肢が存在します。現状の課題を的確に分析し、物件の特性を活かした転換を図ることで、収益改善の可能性が広がります。具体的な転換事例をもとに、実践的な対応策を詳しく見ていきましょう。
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賃貸マンションへの転換する
民泊からの転換先として、賃貸マンションは現実的な選択肢となります。家具家電付きの物件として貸し出すことで、付加価値を維持することが可能です。特に、単身者向けの需要が高いエリアでは、安定した収益を見込むことができます。
賃貸転換の際には、適切なリノベーションが重要です。キッチンやバスルームなど、生活に必要な設備の充実度が入居率に直結します。また、防音性能の向上や収納スペースの確保など、居住性を高める工夫も必要となります。
家賃設定は、エリアの相場を踏まえた慎重な判断が求められます。民泊時代の収益には及ばないものの、維持管理コストの削減と安定した収入確保により、長期的な収益改善が期待できます。
シェアハウスへの変更する
シェアハウスへの転換は、民泊で整備した設備を有効活用できる方法です。共用スペースの充実度が高い物件では、特に魅力的な選択肢となります。入居者同士のコミュニティ形成を促すことで、差別化を図ることも可能です。
物件のレイアウト変更や設備の追加など、初期投資は必要となります。しかし、個室の区画を増やすことで、賃料収入の最大化を図ることができます。特に、若手社会人や学生の需要が見込めるエリアでは、高い入居率を維持できる可能性があります。
入居者の選定基準や家賃設定、共用部分の利用ルールなど、運営方針の確立も重要です。適切な運営体制を構築することで、安定した収益基盤を確保することができます。
運営委託で管理負担を軽減させる
専門業者への運営委託は、管理負担の軽減と収益性の改善を両立させる方法です。予約管理から清掃、メンテナンスまで、包括的なサービスを提供する運営会社も増えています。
委託費用は収益を圧迫する要因となりますが、効率的な運営により稼働率の向上が期待できます。特に、マルチリスティングの活用や料金設定の最適化など、専門的なノウハウを活用することで、収益改善の余地が生まれます。
運営会社の選定は慎重に行う必要があります。実績や評判はもちろん、提供されるサービスの内容や料金体系を詳細に確認することが重要です。契約内容の見直しにより、コストパフォーマンスの向上を図ることも可能です。
民泊物件を売却する
M&A仲介業者を活用した売却は、投げ売りを回避するための有効な選択肢です。専門的な市場知識と豊富なネットワークを持つ仲介業者は、適切な買い手とのマッチングを実現します。
物件の価値を最大化するためには、収支データや運営実績など、詳細な情報開示が必要です。特に、将来的な収益性の分析や、改善余地の提示は、高値売却につながる重要な要素となります。
売却プロセスには一定の時間とコストが発生します。しかし、適切な売却先が見つかれば、投げ売りよりも有利な条件での売却が可能です。事業継続の意思がない場合は、早期の売却判断が重要となります。
民泊物件を購入・売却前に確認すべきことは?

投げ売り物件の取引は、慎重な判断が求められます。購入・売却いずれの場合も、見落としがちな重要なポイントが存在します。物件の本質的な価値を見極めるために必要な視点を、実践的な確認手順とともに解説します。
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購入する場合
投げ売り物件の購入検討時には、表面的な価格の安さだけでなく、複数の観点からの精査が不可欠です。まず、物件の基本的な状態確認から始めましょう。
建物の老朽化状況は特に重要な確認項目です。給排水設備の状態、外壁の劣化具合、雨漏りの有無など、目視だけでは分からない箇所も専門家による調査が推奨されます。築年数が古い物件では、将来的な修繕費用の計上も必要になります。
収支面では、過去の運営実績データの精査が重要です。月別の稼働率や平均宿泊単価、運営コストの内訳など、詳細な数値を確認することで、収益性の実態が見えてきます。特に、閑散期の収支状況は慎重に分析する必要があります。
周辺環境の調査も欠かせません。近隣住民との関係性、騒音やゴミ出しに関するトラブル履歴、自治会や管理組合の民泊に対する姿勢など、運営に影響を与える要素を把握することが重要です。
法的リスクの確認も必須項目です。建築基準法や消防法への適合性、住宅宿泊事業法に基づく届出状況、地域の民泊規制の有無など、コンプライアンス面での課題を洗い出す必要があります。
将来的な改修や用途変更の可能性も検討しましょう。賃貸住宅やシェアハウスへの転換など、代替案を想定した上で、必要な投資額や収益性を試算することが重要です。
売却する場合
売却時には、物件価値を最大限に引き出すための準備が必要です。適切な売却価格の設定には、客観的なデータに基づく分析が重要になります。
まず、収支関連書類の整理が必要です。月次の売上データ、経費明細、設備投資の履歴など、運営実績を示す資料を体系的にまとめることで、物件の収益性を明確に示すことができます。
建物の現状調査も重要です。修繕履歴や点検記録、将来的な修繕計画など、維持管理状況を示す資料を準備することで、買い手の不安を軽減することができます。
運営に関する情報も重要な資料となります。予約システムの運用状況、リピーター率、顧客評価データなど、事業としての価値を示す情報を整理する必要があります。
地域特性や市場動向の分析も欠かせません。周辺の取引事例や賃料相場、開発計画など、物件価値に影響を与える要素を把握することで、適切な価格設定が可能になります。
また、仲介業者の選定も慎重に行う必要があります。取引実績や専門知識はもちろん、ネットワークの広さや情報発信力なども重要な選定基準となります。
さらに、税務面での検討も重要です。売却に伴う税金の試算や、節税対策の検討など、専門家のアドバイスを受けながら進めることをお勧めします。
まとめ
民泊物件の投げ売りは、市場の構造的な変化を反映しています。新規参入の増加による競争激化、人件費の上昇、設備投資負担など、複数の要因が重なり合っています。しかし、これは必ずしもマイナスの状況とは限りません。エリアごとの特性を理解し、物件の本質的な価値を見極めることができれば、新たな投資機会として捉えることも可能です。投げ売り物件の購入を検討する場合は、収益性や法的リスクなど、多角的な視点からの精査が重要です。また、売却を検討する場合は、適切な準備と戦略的なアプローチにより、投げ売りを回避できる可能性があります。市場環境が変化する今だからこそ、冷静な判断と適切な対応が求められています。